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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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運命とは常に非情である

MISSION FROM GOD の続きです。
実は前回の更新からかれこれ一年半ほど経っているので、忘れてらっしゃる方の方が多いかと。
ここにリンク残して起きますね。
以下本文。



「君には、第一防衛線に異動してもらう。これは國の決定であり、何事があっても揺るぐことがない。以上だ」
突然言い渡された異動命令に、言葉もなく京耶は立ちすくむ。
突然? いいや、突然ではない。
春日に言われていたのを思い出した。
久野隊長の手元には、重要書類と書かれた封筒がおかれていて、その中の書類をただ読み上げただけだった。
それなのに、身体から、全身から脱力するこの気分はなんだろうか。
「そんな……急すぎやしないですか、それって」
声が震え、何を言っているのかも自分では理解できなくなる。
全身から噴出す汗に、視界がぐらついている。
「僕もこれには驚いたよ」
久野隊長も、驚きの色を隠せないという表情でいる。
実戦なんか、この間のオキナワ以来だから、一週間ほどのブランクだけれど。
いやそもそもそれぐらいの期間をブランクとは言わないのだろうな。
「……隊長」
「なんだい」
いつものようにやさしい声で、久野隊長は応えてくれる。
「俺が行くことで、誰かが」
あいつを。
真空を守って、くれるのですか。
そうは思ったものの、何も言うことができずに、俺は口を噤んだ。
「行って、きます」
覚悟を決めた上での、返答を。
彼女を、説得しなければいけないのだろうか。
無言で行くには、荷が重すぎた。



「気をつけてね、鈴本君」
「身体には、気をつけるんだぞ」
見送りに来てくれたのは、倉内と春日だけだった。
異動の話を聞いてから、一週間。
地下のLeichtsinnige-Lauf-Zugのホームである。
辺りを見回せど、ほかの隊員たちの姿はあれども真空の姿はどこにも見当たらない。
「なになに、お姫様のことが気になるのかにゃー?」
図星だった。
けれど、きちんと話をしたのである。
異動命令を聞いたその日のうちに、京耶は話し合いの場を設けた。
誰かが行かなければならないのは、お互いにわかっていたし、これも世界のためだということを。
しかし真空にとってそれは、赤紙を渡された家族のような心境だったのだ。
「そりゃ、まあ……」
少し照れくさい。とはいえ、彼女の存在は京耶にとっては今や大切なものだったから、ないがしろにはできないのだ。
「大丈夫だよ、あたしたちがいるからさ」
倉内はそう言うと、ただ笑っているだけの春日さんのわき腹を小突く。
「ああ、そうだぞ。お前、人の心配する前に、泣きながら帰ってくるなよ?」
春日さんは京耶の頭をはたき、声をあげて笑っていた。
乗車のアナウンスが流れて、京耶は乗り込む。
「それじゃあ、行ってきます」
荷物は、スーツケースひとつに収めて。
できるだけ身軽な格好でいくことにしていた。
扉が閉まり、今度は発車のアナウンスが流れる。
倉内と春日が、手を振ってくれている。
結局、最後まで真空は見送りに来なかったか。
ため息をついて、ゆっくりと離れていくホームを眺めていた時だった。
「京耶君!」
どこかで聞いた、懐かしい声がした。
窓の外に、Leichtsinnige-Lauf-Zugを追いかけてくる真空の姿があった。
「これ、おねがい、受け取って!」
まだゆっくりとホームを離れていくだけのLeichtsinnige-Lauf-Zugは、だんだんとスピードをあげていた。
それにまだ追いつけるぐらいの速さで、真空は一通の手紙を俺に渡そうとしている。
手を伸ばして、それを受け取る。
だんだんとスピードがあがっていく。
「手紙だから、必ず、読んで!おねが、あっ」
前だけを見て走っていた真空がこけた。
「真空!」
だんだんと、遠くなっていく真空の姿。
それを抱き起こす蔵内と春日の姿が見えて、俺はおもいっきり手を振った。
「必ず、かえってきて−−」
大声で、真空は叫んでいた。
それに応える形で、俺は更に手を振った。
大きく、大きく振ったのだ。
その姿が見えなくなるまでずっと。



次回
第一防衛線に配置された京耶は、神人の竹田と出会う。
そして、始まりつつある異形の者どもの進行。



リンク貼った分以外にも、カテゴリ変更をし損ねたやつがあるような気がする。
ミッドランドスクエアを占領するやつとか、どこにやったかなぁ……。
誰か知ってたらコメントにでもカキコよろ。
続きますこれ。

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眠り姫と

MISSION FROM GOD の続きになります。

「まあ、簡潔に言っとくよ」
春日は軽々しく言った。
「異形の根城があることが発覚したので、鈴本君にはそっちに行ってもらうことになりました。あと、真空ちゃんは俺と一緒に本部で待機ね」
本当に軽々しく言われたので、二人は愕然とした。
「は…え、ええ?」
真空の頭上にクエスチョンマークがいくつか浮いているのがわかる。
「ま、行くだけね、行くだけ。真空ちゃん、起きてる?」
真空の前で手を振る仕草を一瞬だけして、春日は口を開く。
「ま、上からの命令だから、何とも言い難いんだけどさ」
「いや、でもいきなりすぎないですか?」
「うん、いきなりだよ。」
少し悲しげに春日は言う。
「もうじき、決着がつくのかって思うと、何だかね」
春日は制服の内ポケットから手帳をとりだした。
外装はボロボロで、ところどころに赤黒いシミが点々とついている。
「これさ、305の奴らと一緒に書いたんだ」
そういって、手帳をぱらぱらとめくった。
そこに書かれていたのは、様々な言葉だった。
どれもこれも殴り書きに見えた。
それは、生きて帰るだとか、世界を救うだとかいった言葉の類の文字の羅列。
ただの羅列ではなく、それぞれの想いがこもったものだというのは、京耶にも理解できた。
「あん時はさ、みんな必死だったのにさ」
乾いた笑いが耳に残った。
真空はいつの間にか寝息を立てていた。
「死にたくねえって、誰もかれもが思ってた。結局、残ってんのは俺と倉内、宮ノだけだもんな」
「…」
「聞いたんだろ、全部」
投げかけられた質問に、京耶は素直に答えていいのかどうかわからなかった。
「…はい」
はは、素直だな-そう言って、春日は手帳をもとのポケットに仕舞う。
「俺たちに課せられたもんはでかすぎて、たまに押しつぶされそうになるだろうが」
春日は真空を見て、京耶に向き直る。
「守るもんがあるだろ?」
その先は言わずとも、京耶には伝わっていた。

「ああ、うん、そろそろだと思ってた」
二人がその場を離れた少し後、宮ノ邸に一本の電話がかかってきていた。
「ええ、大丈夫よ…ほんと、昔から心配性なんだから」
すこしだけ体調の悪そうな顔色をしてはいるが、何だかすっきりとした表情の宮ノは電話口の相手に微笑んだ。
「うん……今すぐにでもそっちに行ける準備はしてあるわ。それじゃ、また連絡して」
ほぼ一方的に受話器を置いた。
窓の外、一面の銀世界を遠目に見て宮ノは煙草に火をつけた。
浮かぶ紫煙と、上ってきた太陽に目を細めた。
「戦場なんて、もう戻ることはないと思ってたのにね…」
宮ノの瞳には、曇りひとつなかった。
あったのは、希望と野心だけだった。

「はーい、おかえりなさーい」
本部に戻った京耶たちを最初に出迎えたのは倉内だった。
髪型はいつものポニーテールではなく、今日はツインテールになっていた。
「おう、今戻った」
京耶は真空を抱えて、ゆっくりとヘリから降りてきた。
「鈴本君、お疲れ様…お姫様はおねむですか」
ニヤニヤしながら倉内が近づいてくる。
「…かわいいねぇ」
真空の頬をぷにぷにと指でつつきながら、倉内は言う。
「で、春日君は大事なお話したのかにゃ?」
いきなりの振りに春日は答える。
「ああ、したよ」
「ならおっけー。鈴本君、その足で久野体長のとこ行ってもらえる?お姫様は預かるから」
言うが早いか彼女の行動が早いか。
京耶の腕に抱かれていた真空は簡単に倉内の胸の中にうつった。
「あ…はい、わかりました」
少し不思議な感覚だったが、京耶は久野の元へと向かうことにした。
「真空、おねがいします」
「はいはーい」
にっこりと笑いながら倉内は手を振った。
春日もそれにあわせるかのように手を振っていた。
京耶はそれを見て安心したのか、駆け出した。
彼の姿が見えなくなって、倉内は言葉を漏らした。
「これ、戦争なんだよね…」
表情は暗く、この先を暗示するかのような呟きだった。



つづく。
久々に。
さーどうしよ。

MISSION FROM GOD を読み返す。

OK、閑話休題といこうか。

さて、長々と書き綴った話ではあるが、未だに終わりは見えず。
いつも中途半端なので、これは終わらせたいとは思う。
しかし、あれだ。
いくつになっても妄想ってのは大事なんだと思う。
最近はぜんぜんそういった妄想をぜんぜんしていないので、どうにもこうにも。
と、ここへ来て「MISSION FROM GODってなに?」って人のために説明。

高校在学時に、ひょこっと脳内で妄想した話。
おおまかな形もなにもなしに、行き当たりばったりで話を考えていた。
それを、ここに綴っていたわけだ。
PCから見てる人には、カテゴリの方から飛んでもらえるけど、携帯からだと例によって探さなきゃいけないので。
リンクを張ることにした。

さて、骨が折れる仕事になりそうだ。

以下、上から掲載順になっています。

「MISSION FROM GOD」

明日なき戦い

そこにROMANは在るのだろうか

星屑の革紐 

朝と夜の物語 

RING 

『101小隊壊滅事件』 

『続・101小隊壊滅事件』

泣いた彼女と。 

『燃え盛る 女神』 

其れは、春の絢爛を迎えし日 

あの冬の惨状をもう一度。 

続・あの冬の惨状をもう一度。

宮ノ邸からの帰還 


Sound Horizonの曲名がタイトルになってるのは、Romanがちょうどでた時期だったからです。

さて、妄想するか。

宮ノ邸からの帰還

ええと、続きです。前回更新分はこちら→続・あの冬の惨状をもう一度


冬の朝は寒い。
この地方も例に漏れることはない。
よって、寒い。
しかしこの寒さは異常と言ってもいいほどだろう。ここ数年、寒さが増していく。
Variantが現われてから、尚ひどいことになってしまったような気がしてならない。降りつもる雪で、地上で唯一動いていた東王線もその足を止められていた。
本部からの緊急招集により、宮ノ邸からトンボ帰りをする羽目になった京耶と真空は、駅前で佇むほかなかった。
「寒いな」
吐く息が白い。まるで、極寒の地にでもいるかのように思える。
それにしても、いつにも増して上ってくる太陽の陽射しがやけにまぶしい気がする。まだ少し薄暗くはあるが。起きたら一面、銀世界だったということもあってのことだろうか。
しかし、いくらなんでも寒すぎる。宮ノ邸を出るときに、寒いだろうからと渡されたコートと手袋が気休め程度でしかないのが悔やまれる。それでもないよりはマシなので、二人はそれらを着込んでいた。
「本部からの連絡だと、もう少ししたら、迎えが来るはず…真空、大丈夫か?」
京耶の横で、しゃがみこむ真空は、ゆっくりと顔をあげた。
「…さむいよ」
手袋をした手で、コートの裾を掴んでいる。少し震えているようだ。
「だよな、すまん」
「京耶君が謝ることないのさー…ただ、ちょっと、寒いのは苦手なのさ…」
どうやら寒いのが苦手だと言うのは本当のことらしい。そういわれれば、昨日寝るときにやけに布団を重ねていたのを見たのも、此処に来てからやけに寒そうなのを見ても伺える。
「…」
心なしか、瞳が潤んでいるように見える。はて、何かしでかしたか?
そう思っていると、ポケットの中の携帯が鳴った。
見知らぬ番号だった。
「はい」
一応出ることにする。仮令知らない番号からでも、かけてきた以上は出てやるのが礼儀だと、京耶は個人的に思っていた。
すぐに聞き覚えのある声がこだました。
『あ、京耶君かい?私だ、久野だ』
「え、あ、久野隊長、ですか」
『えっとね、本部からの通達は来てるよね?』
「はい、今朝方…一時間ぐらい前に」
淡々と話を進める久野の口調に、京耶も同じように受け答えした。
『それでね、そっちに行きたいのは山々なんだけどね、上、動かないでしょう?』
「上…ええ、雪がすごくて…」
『で、迎えがそろそろいくはずなんだけど、君らの居場所の特定に困っちゃってね』
真空に目をやると、相変わらず寒そうにしていて、俯いている。寝てしまいそうな勢いである。
『駅かどっか、ない?無人でも、事務所の中に信号弾か何かあると思うんだけど』
と、言われ、電話を切られた。
唐突すぎて、不思議にすら思った。別に圏外でもなんでもない。普通に話をしていたのだが…。
「…真空、ちょっと待ってて」
んー、という唸り声のようなものを聞き、京耶は駅構内にある事務所へと向かう。
案の定鍵がかかっていて、ガラスを破る以外の選択肢はなさそうだ。本来なら良心が咎めるところだが、今はそれどころではない。
都合よく、事務所の外に積まれていた鉄パイプを一本取り、窓にむかい振りかぶる。思いのほか簡単に割れて、唖然としながらも中を探る。
「お、あったあった」
事務所の机の中に、一本だけ発炎筒があった。朝とは言っても、まだ少し陽が上ってきたところだというのに、もうある程度の明るさがあった。
駆け足で、真空の元に戻る。眠りそうな真空を元気付けて、京耶はもう一度電話を取る。着信履歴に残っている、見知らぬ電話番号にかけた。
繋がらない。
もう一度かけようかと思ったものの、その選択肢を拒否。手にした発炎筒をつけて、足元に放った。
見る見るうちに、もくもくと煙をあげる発炎筒。すぐに消えることはないだろうとは思うが、連絡もつかぬこの状況では、どうしようもない。
一旦宮ノ邸に戻って暖を取ろうかとも思ったが、召集を受けているのにうかうかとしてはいられない。しかしそれもどうだろうか、こうやって召集まで受けて外で待っているのに連絡すらつかない、一体それの何が緊急招集に繋がるのか。
そこまで考えて、訝しくなったので京耶は考えるのをやめた。そこでしゃがみ込み、真空の肩を抱いてやる。一瞬、真空の身体がびくんと跳ねたが、それ以上の動きを見せることはなかった。
「………とう…」
小さな声で、返ってきた言葉に、返す言葉が見当たらずに。京耶は黙りこくっていた。
言わずとも、伝わるというのに。ほんの少し照れてしまって、空を見上げた。
 
雪の降った後の、一面銀世界の駅前で。音もなく、ただただ座り込む二人。
京耶の意識が、少しずつ遠のいた時、どこかで聞いた覚えのある音が聞こえてきた。
「…この、音」
バラバラバラと、プロペラの回る音。
立ち上がって、空を見渡す。
雲の向こう、東の空の向こうから、上層部御用達のヘリがこちらに向かって飛んできていた。
「…真空、迎えがきたぞ!」
思わず大声ではしゃいでしまう京耶。ふぇ?と、何の気なしに顔をあげる真空は、事態を把握できていない。
そのヘリは、上空まで来ると、ゆっくりと下降してきた。
ヘリは無事に着陸し、扉が開いて一人の男と数人の兵士が降りてきた。
軍帽を目深に被り、この寒い地だというのに軍服一枚である。事前の情報ぐらいはあったのじゃないかと思われたのだが。
「鈴本京耶、前園真空だな」
表情は伺えないが、態度からしてどうも上官のようである。威圧感があり、どうにも声をかけ辛い雰囲気がある。
「は、はい!」
「久野部隊長の直々の命により、迎えにあがった」
まだ覚醒しきれていない真空を立たせ、敬礼の形をとる。
「迎えが遅れてしまい申し訳ない。君たちには、緊急招集の通達がきているはずだ」
――乗りたまえ、時間がない。
男は、二人を急かすようにヘリに乗せた。
荷物は他の兵が持ち、一緒に乗り込む。
「あ、あの、あなたは…」
プロペラが回りだして、地を離れたころに、やっと口を開くことができた。
「はは、あんま畏まるなって」
途端、気の抜けた言い方をされ、京耶は戸惑う。真空はまだ空ろな瞳でどこともなく視線を泳がせている。
「え、…っと、え?」
「俺だ、俺」
目深に被った帽子を、すっととる。
京耶には見覚えがあった。
「か…春日さん!?」
はっはっは、と声をあげて笑うその男は、紛れもなく春日小牧その人であった。
 
 
 
続く。
 
こんだけ書いてから矛盾点に気付く。
なんか、おかしいよなと。Variantがいるはずなのに、何故この辺りは普通に鉄道が通っていて、尚且つそのVariantよりも狼とか野生の獣のが強いのか。
その辺は追々説明していく予定。
今はこれで勘弁。
 
続くからね。しつこいようだけどもw

続・あの冬の惨状をもう一度。

「私がDer Ritter der Gerechtigkeitを抜けたのは、あの事件からひと月経ってから。丁度、この季節だったわ」
綾沙は語る。窓の外、雪の降り始めた景色を見つめながら。
「ごめんなさい、ストーブの火をつけてもいいかしら」
席を立って、綾沙田は石油ストーブに火をいれた。
「…今夜は泊まっていくでしょう?」
哀しそうな笑みを浮かべ、綾沙は口をひらいた。

詳細は以下の通りである。
ホッカイドウにて行われた、Der Ritter der Gerechtigkeit北方支部との合同訓練中に現われたVariantの突然の襲撃により、101小隊並びに、305小隊を始めとする、北方支部の小隊は壊滅状態に陥った。
これによって、北方支部は事実上の壊滅、101小隊は無残にも敗走する形となる。
生き残ったのは、倉内、春日、そして宮ノ。
「酷かったわ、あの惨劇は」
京耶も真空も、息を呑んで聞き入る。
ストーブの火が、暖かかった。
「あの時のことを思い出すと、何ともいえない気持ちになるのよ。私たちだけ生き残ってよかったのかしらって」
湯気の立つカップを、口につける。
「本当は、私たちもあの時死んでおくべきだったんじゃないかって思うの」
消極的な言葉を放ったのが、真空には堪えたらしい。
「そんな…何を言うんですか宮ノ少尉」
「もう、よしてよ、軍属じゃないんだから」
詳しい話は、聞いてるでしょう、綾沙は言った。
「それなのに、何故私のところへ来たの?」
キッと睨まれて、二人は肩をすくめた。
「それは、その…」
「…ごめんなさいね、私、少し…」
咳き込む綾沙。
テーブルに吐かれた血液。
「少尉…!大丈夫ですか?」
真空が席を立ち、綾沙の隣にしゃがむ。
「ええ、大丈夫よ。胃潰瘍、だから」
何とも、言えた義理ではないが。
苦い笑顔で、綾沙は言う。
「あの、今更なんですけど」
京耶がそれをさえぎるようにして言う。
「やっぱり、これ以上は、聞かないことにします」
「え?京耶君、それ、本気なの?」
真空の高い声が更に裏返る。
「あまり、少尉にも迷惑をかけるのもなんか…」
他の二人が、キョトンとした。
「…ふふ、ふふふあははははっ」
いきなり笑い出す綾沙。それを見て更に真空の顔は驚きの表情を浮かべた。
「今更、ほんと、今更ね…まあいいわ、だったら、すぐに夕飯にしましょう」
「え…あ…」
会話の機を逃した真空は、オロオロするばかりである。
「いや、今日はもこの辺でおいとまします。あまり迷惑ばかりかけられないし」
そう、なら、帰れるものなら帰っていいわよ。得意な顔で彼女は言う。
「ただし、夜になるとこの辺りは、狼が出るの。Variantより恐ろしいわよ」
うっすらと浮かべられた笑みが、恐ろしかった。

「お風呂までいただいてしまって、すいません」
濡れた髪を乾かしながら、真空は言った。
「いいのよ、お客さんなんて久しぶりだしね」
珈琲の入ったカップに口をつけながら、宮ノは振り返る。
夕飯をご馳走になり、更に湯まで借りた真空と京耶。真空は先に入り、京耶は洗いものをしている(もとい、させられている)。
「それにしても、ね」
ついたため息、吐かれた息は白い。途端に、空気の流れが変わる。
「…あの、宮ノ少尉」
「だから、もう少尉じゃないって。昔の話よ」
それと、今夜は寒くなるだろうから、気をつけて。
真空はそれに頷いた。
「…いつまで続くのかしらね」
「え、あ…」
自分の言おうとした言葉を言われて、真空は戸惑う。
「何で、戦わなければいけないのか、ってね私は思ったの」
不意に言い出した宮ノに、少しだけ驚く真空。
「今だって少しずつ、終わりには近づいているのだろうけれどね」
椅子から立ち上がり、宮ノはカップの珈琲を飲み干した。
「ごめんなさい、先に休ませてもらうわ」
「あ…」
奥の部屋、使っていいからーーそう言って、真空の視線を背に受けながら、宮ノは部屋を出て行った。
ただ、見送るだけの真空は、何を思ったのだろうか。

翌朝、まだ陽の上りきらないうちに、二人は身支度を整えて本部へと戻ることになる。
少しずつ、運命という名の歯車がかみ合い、廻り始めた。


続く。
久々の本編。
まだまだ、終わらんよ。

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