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続・あの冬の惨状をもう一度
冬の朝は寒い。
この地方も例に漏れることはない。
よって、寒い。
しかしこの寒さは異常と言ってもいいほどだろう。ここ数年、寒さが増していく。
Variantが現われてから、尚ひどいことになってしまったような気がしてならない。降りつもる雪で、地上で唯一動いていた東王線もその足を止められていた。
本部からの緊急招集により、宮ノ邸からトンボ帰りをする羽目になった京耶と真空は、駅前で佇むほかなかった。
「寒いな」
吐く息が白い。まるで、極寒の地にでもいるかのように思える。
それにしても、いつにも増して上ってくる太陽の陽射しがやけにまぶしい気がする。まだ少し薄暗くはあるが。起きたら一面、銀世界だったということもあってのことだろうか。
しかし、いくらなんでも寒すぎる。宮ノ邸を出るときに、寒いだろうからと渡されたコートと手袋が気休め程度でしかないのが悔やまれる。それでもないよりはマシなので、二人はそれらを着込んでいた。
「本部からの連絡だと、もう少ししたら、迎えが来るはず…真空、大丈夫か?」
京耶の横で、しゃがみこむ真空は、ゆっくりと顔をあげた。
「…さむいよ」
手袋をした手で、コートの裾を掴んでいる。少し震えているようだ。
「だよな、すまん」
「京耶君が謝ることないのさー…ただ、ちょっと、寒いのは苦手なのさ…」
どうやら寒いのが苦手だと言うのは本当のことらしい。そういわれれば、昨日寝るときにやけに布団を重ねていたのを見たのも、此処に来てからやけに寒そうなのを見ても伺える。
「…」
心なしか、瞳が潤んでいるように見える。はて、何かしでかしたか?
そう思っていると、ポケットの中の携帯が鳴った。
見知らぬ番号だった。
「はい」
一応出ることにする。仮令知らない番号からでも、かけてきた以上は出てやるのが礼儀だと、京耶は個人的に思っていた。
すぐに聞き覚えのある声がこだました。
『あ、京耶君かい?私だ、久野だ』
「え、あ、久野隊長、ですか」
『えっとね、本部からの通達は来てるよね?』
「はい、今朝方…一時間ぐらい前に」
淡々と話を進める久野の口調に、京耶も同じように受け答えした。
『それでね、そっちに行きたいのは山々なんだけどね、上、動かないでしょう?』
「上…ええ、雪がすごくて…」
『で、迎えがそろそろいくはずなんだけど、君らの居場所の特定に困っちゃってね』
真空に目をやると、相変わらず寒そうにしていて、俯いている。寝てしまいそうな勢いである。
『駅かどっか、ない?無人でも、事務所の中に信号弾か何かあると思うんだけど』
と、言われ、電話を切られた。
唐突すぎて、不思議にすら思った。別に圏外でもなんでもない。普通に話をしていたのだが…。
「…真空、ちょっと待ってて」
んー、という唸り声のようなものを聞き、京耶は駅構内にある事務所へと向かう。
案の定鍵がかかっていて、ガラスを破る以外の選択肢はなさそうだ。本来なら良心が咎めるところだが、今はそれどころではない。
都合よく、事務所の外に積まれていた鉄パイプを一本取り、窓にむかい振りかぶる。思いのほか簡単に割れて、唖然としながらも中を探る。
「お、あったあった」
事務所の机の中に、一本だけ発炎筒があった。朝とは言っても、まだ少し陽が上ってきたところだというのに、もうある程度の明るさがあった。
駆け足で、真空の元に戻る。眠りそうな真空を元気付けて、京耶はもう一度電話を取る。着信履歴に残っている、見知らぬ電話番号にかけた。
繋がらない。
もう一度かけようかと思ったものの、その選択肢を拒否。手にした発炎筒をつけて、足元に放った。
見る見るうちに、もくもくと煙をあげる発炎筒。すぐに消えることはないだろうとは思うが、連絡もつかぬこの状況では、どうしようもない。
一旦宮ノ邸に戻って暖を取ろうかとも思ったが、召集を受けているのにうかうかとしてはいられない。しかしそれもどうだろうか、こうやって召集まで受けて外で待っているのに連絡すらつかない、一体それの何が緊急招集に繋がるのか。
そこまで考えて、訝しくなったので京耶は考えるのをやめた。そこでしゃがみ込み、真空の肩を抱いてやる。一瞬、真空の身体がびくんと跳ねたが、それ以上の動きを見せることはなかった。
「………とう…」
小さな声で、返ってきた言葉に、返す言葉が見当たらずに。京耶は黙りこくっていた。
言わずとも、伝わるというのに。ほんの少し照れてしまって、空を見上げた。
雪の降った後の、一面銀世界の駅前で。音もなく、ただただ座り込む二人。
京耶の意識が、少しずつ遠のいた時、どこかで聞いた覚えのある音が聞こえてきた。
「…この、音」
バラバラバラと、プロペラの回る音。
立ち上がって、空を見渡す。
雲の向こう、東の空の向こうから、上層部御用達のヘリがこちらに向かって飛んできていた。
「…真空、迎えがきたぞ!」
思わず大声ではしゃいでしまう京耶。ふぇ?と、何の気なしに顔をあげる真空は、事態を把握できていない。
そのヘリは、上空まで来ると、ゆっくりと下降してきた。
ヘリは無事に着陸し、扉が開いて一人の男と数人の兵士が降りてきた。
軍帽を目深に被り、この寒い地だというのに軍服一枚である。事前の情報ぐらいはあったのじゃないかと思われたのだが。
「鈴本京耶、前園真空だな」
表情は伺えないが、態度からしてどうも上官のようである。威圧感があり、どうにも声をかけ辛い雰囲気がある。
「は、はい!」
「久野部隊長の直々の命により、迎えにあがった」
まだ覚醒しきれていない真空を立たせ、敬礼の形をとる。
「迎えが遅れてしまい申し訳ない。君たちには、緊急招集の通達がきているはずだ」
――乗りたまえ、時間がない。
男は、二人を急かすようにヘリに乗せた。
荷物は他の兵が持ち、一緒に乗り込む。
「あ、あの、あなたは…」
プロペラが回りだして、地を離れたころに、やっと口を開くことができた。
「はは、あんま畏まるなって」
途端、気の抜けた言い方をされ、京耶は戸惑う。真空はまだ空ろな瞳でどこともなく視線を泳がせている。
「え、…っと、え?」
「俺だ、俺」
目深に被った帽子を、すっととる。
京耶には見覚えがあった。
「か…春日さん!?」
はっはっは、と声をあげて笑うその男は、紛れもなく春日小牧その人であった。
続く。
こんだけ書いてから矛盾点に気付く。
なんか、おかしいよなと。Variantがいるはずなのに、何故この辺りは普通に鉄道が通っていて、尚且つそのVariantよりも狼とか野生の獣のが強いのか。
その辺は追々説明していく予定。
今はこれで勘弁。
続くからね。しつこいようだけどもw
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