MISSION FROM GOD の続きになります。
「まあ、簡潔に言っとくよ」
春日は軽々しく言った。
「異形の根城があることが発覚したので、鈴本君にはそっちに行ってもらうことになりました。あと、真空ちゃんは俺と一緒に本部で待機ね」
本当に軽々しく言われたので、二人は愕然とした。
「は…え、ええ?」
真空の頭上にクエスチョンマークがいくつか浮いているのがわかる。
「ま、行くだけね、行くだけ。真空ちゃん、起きてる?」
真空の前で手を振る仕草を一瞬だけして、春日は口を開く。
「ま、上からの命令だから、何とも言い難いんだけどさ」
「いや、でもいきなりすぎないですか?」
「うん、いきなりだよ。」
少し悲しげに春日は言う。
「もうじき、決着がつくのかって思うと、何だかね」
春日は制服の内ポケットから手帳をとりだした。
外装はボロボロで、ところどころに赤黒いシミが点々とついている。
「これさ、305の奴らと一緒に書いたんだ」
そういって、手帳をぱらぱらとめくった。
そこに書かれていたのは、様々な言葉だった。
どれもこれも殴り書きに見えた。
それは、生きて帰るだとか、世界を救うだとかいった言葉の類の文字の羅列。
ただの羅列ではなく、それぞれの想いがこもったものだというのは、京耶にも理解できた。
「あん時はさ、みんな必死だったのにさ」
乾いた笑いが耳に残った。
真空はいつの間にか寝息を立てていた。
「死にたくねえって、誰もかれもが思ってた。結局、残ってんのは俺と倉内、宮ノだけだもんな」
「…」
「聞いたんだろ、全部」
投げかけられた質問に、京耶は素直に答えていいのかどうかわからなかった。
「…はい」
はは、素直だな-そう言って、春日は手帳をもとのポケットに仕舞う。
「俺たちに課せられたもんはでかすぎて、たまに押しつぶされそうになるだろうが」
春日は真空を見て、京耶に向き直る。
「守るもんがあるだろ?」
その先は言わずとも、京耶には伝わっていた。
「ああ、うん、そろそろだと思ってた」
二人がその場を離れた少し後、宮ノ邸に一本の電話がかかってきていた。
「ええ、大丈夫よ…ほんと、昔から心配性なんだから」
すこしだけ体調の悪そうな顔色をしてはいるが、何だかすっきりとした表情の宮ノは電話口の相手に微笑んだ。
「うん……今すぐにでもそっちに行ける準備はしてあるわ。それじゃ、また連絡して」
ほぼ一方的に受話器を置いた。
窓の外、一面の銀世界を遠目に見て宮ノは煙草に火をつけた。
浮かぶ紫煙と、上ってきた太陽に目を細めた。
「戦場なんて、もう戻ることはないと思ってたのにね…」
宮ノの瞳には、曇りひとつなかった。
あったのは、希望と野心だけだった。
「はーい、おかえりなさーい」
本部に戻った京耶たちを最初に出迎えたのは倉内だった。
髪型はいつものポニーテールではなく、今日はツインテールになっていた。
「おう、今戻った」
京耶は真空を抱えて、ゆっくりとヘリから降りてきた。
「鈴本君、お疲れ様…お姫様はおねむですか」
ニヤニヤしながら倉内が近づいてくる。
「…かわいいねぇ」
真空の頬をぷにぷにと指でつつきながら、倉内は言う。
「で、春日君は大事なお話したのかにゃ?」
いきなりの振りに春日は答える。
「ああ、したよ」
「ならおっけー。鈴本君、その足で久野体長のとこ行ってもらえる?お姫様は預かるから」
言うが早いか彼女の行動が早いか。
京耶の腕に抱かれていた真空は簡単に倉内の胸の中にうつった。
「あ…はい、わかりました」
少し不思議な感覚だったが、京耶は久野の元へと向かうことにした。
「真空、おねがいします」
「はいはーい」
にっこりと笑いながら倉内は手を振った。
春日もそれにあわせるかのように手を振っていた。
京耶はそれを見て安心したのか、駆け出した。
彼の姿が見えなくなって、倉内は言葉を漏らした。
「これ、戦争なんだよね…」
表情は暗く、この先を暗示するかのような呟きだった。
つづく。
久々に。
さーどうしよ。
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