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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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それでも世界は生きているから if ハイネとマリィ

それでも世界は生きているから ハイネ篇3より

部屋には私一人になった。
目の前に用意されている、食事を口に運ぶ。
「おい、しい……」
少しずつ、だけれど。
私は、味わって食事をした。
食べ終わって、私は息をつく。
とは言うものの、半分以上残してしまった。
あとで謝っておこうと思い、表の様子が気になった。
ふと、聞きなれた声が響いていることに気づいた。
誰、だろう。
記憶の中に、その声が残っている。
頭痛がしはじめた。
うまく、息ができない。
壁にもたれかかり、そのまま立ち上がる。
何かが私を呼ぶ。
何かが。

その何かが何なのか、私にはわからない。
理解しようと、見つけようとしているのに答えが出てこない。
私の記憶の蓋は閉じたままでまるで機能してくれない。
どうしたらいいんだろう。
そこだけ穴が空いていて、ぽっかりと、向こう側が見えるような感覚。

まるで

薄暗い井戸の底にいるような、そんな。
「どこ!? ハイネはどこにいるんだ!?」
部屋の外から、私の名前を呼ぶ声がする。
頭が痛い。
もうずっと、頭痛がしている。
痛みが激しくて、床に蹲ってしまった。
きっと何かがあるはずなんだろう。この声を聞いていると、どんどん頭が痛くなってくる。
ドアの開く音がする。
ゆっくりと、顔をあげると、そこに。
「……探したよ、ハイネ」
私の名を呼ぶ誰か。
見知らぬ誰かがそこに立っていた。



きっとこの人が、私の探していた人なんだろう。
でも、私は何も思い出せない。
思い出さなければいけないはずなのに。
「ね、ハイネ、本当に思い出せないの……?」
彼女は、マリィと名乗った。
私は、ゆっくりと頷いてそのまま顔を伏せる。
今私たちは、イソロクさんにあてがわれた私の部屋に居た。
背の高い本棚がある部屋で、小さなベッドと、机と椅子が一組ずつ置いてある部屋だ。
窓もあって、この辺りでは少し違う景色が見れるとか言っていた。
「そっか……じゃ、思い出すまで頑張ろうね」
マリィは少しだけ悲しそうな顔をして、笑ってくれた。
何も思い出せない私は、マリィに、一体どういう付き合いをしていたのかを聞いた。
少し恥ずかしそうに彼女は言ったけれど、私はそれに対して、極少量の、おかしな感覚を覚えた。
「そ、れ、本当で、すか……?」
この人が、本当のことを言っているのか、うそを言っているのかどうかはわからない。
けれど、もし、もし。
「本当、だよ。僕と君は、その、お互いの身体の隅々まで知っているし、どこが感じるとか、癖とか」
しどろもどろになりつつも彼女は続ける。
「髪をかきあげる時の仕草だって、右手でゆっくりと櫛をかけるようにするし」
きっと、うそは言っていないのだろう。
部屋の小さなベッドに、並んで腰掛けて。
うつむく私の頬をそっと撫でる手があって。
心なしか、彼女のその手は震えている。
「大丈夫、僕は、大丈夫だから」
上ずる声で彼女は言う。
「よかったら、思い出すまで、一緒にいさせてくれない、かな」
ああ、悲しいのだろう。私も、そうだ。
何故思い出せないのだろうか。
隣に、私を必要としてくれている人がいるのに。
顔をあげると、彼女の瞳から涙がこぼれている。
「ね、だから、がんばろうよ」
そっと、やさしく。
私は彼女を抱きしめる。
ひしと手を返して私を抱き返す彼女。
胸の内に潜んだ、ある気持ちが根をはりだしている。

水嶋ハイネが、此処に存在する理由は二つあった。
自分自身の歌う歌によって、人々が生み出す笑顔を見ること。
記憶の中に存在する彼女に出会い、告白をすること。
その二つのうちの、一つが今叶えられるのだろうか。
少なくとも、記憶を取り戻すことができていない時点では無理な話だ。
この状況で、どうやって、気持ちを伝えればいいのだろうか。
泣いていた彼女は、ベッドでまるまって眠っている。
泣きつかれたのか、それとも単に眠たかっただけなのかは定かではない。
自分の内に潜む気持ちを、ハイネは処理することができないでいた。

少なくとも、記憶が無くなる前は彼女とは恋仲であったことを確認した。
それを聞いた時、自分の中に産まれたのは負の感情。
本人に言ってはいけない、彼女を傷つけてしまう言葉。
嫌悪感。
記憶を失う前の自分自身と、彼女に対する嫌悪感を感じていたのだ。
それは記憶を失うとか、そういったものが左右するものではないだろう。
だがしかし、今の自分にはそれが耐えられない。
記憶が取り戻されたら、今後も記憶が失われる前と同じような生活を送るのだろう。
彼女と。
考えただけで、気分が悪くなるぐらいだった。
戸惑いと嫌悪感が、自分の中でぐちゃぐちゃに絡み合って対処できない。
これじゃあ、記憶を取り戻すなんて、出来ない。
でも。
彼女が傷つくのは、きっと、辛いことなんだろう。
私の中で、どうにもならないことになってしまって、もう、私は。



「あの、ね、その」
私は覚悟を決めていた。
全てを正直に話そうと。
真剣な顔をして、彼女が座っている。
「さっき、がんばろ、うって、言ってく、れた、けど」
相変わらず部屋に二人っきりだ。
これから言うことは、彼女にとっては酷なことだろう。
「私、はあ、なたと、一緒に、……いる、気はな、いの」
まるで、時が止まったかのように彼女の表情が固まった。
「記憶が、なくな、るまえはそ、うだ、ったのか、もしれ、ないけ、れど」
彼女の目が、見開かれる。
私は、それを気にも留めずに続けた。
「今の私、は、そうじゃな、い、そう、いうの、は」
彼女の顔が歪む。
「気持ち、悪い」
言い終わるころ、彼女の両手が私の首を掴んだ。
「く、る……し、い」
その手には、力が込められている。
苦しい。
息ができない。
ぶつぶつと彼女は言っている。
何を言っているのか、よく、聞き取れない。
ただ、私は抵抗することを選ばなかった。
このまま、死ぬことになっても仕方ないと、そう思ったからだ。
彼女が望むなら、そうしよう。
彼女の望む私は此処にはいない。
だから、せめてこれぐらいは。

「さよ、な、ら」












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