忍者ブログ

その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

それでも世界は生きているから マリィ篇

一体誰が僕の名を呼ぶのだろうか。
何も変わらぬまま、三日が過ぎた。
一つ、驚いたことがあったのを除けば。
本当に、この世界は何も変わらない世界だということを実感した。

「そうそう、明日からお祭りがあるのだけれど、行ってみてはどうかな」
夕食の席で、エンリッヒが言った。
「お祭り、ですか?」
手にしたライ麦のパンを皿に置いて、僕もそれに答える。
「そう、お祭り。町の聖誕祭みたいなもんなんだけどね」
エンリッヒはそれから一人で話はじめた。
十分ぐらい、延々と。
僕が口を挟む暇がないぐらいの饒舌だった。
「と、まあ、歴史とかそういったものが絡んでくるんだよ」
「そうなんですか……じゃあ、行ってみようかな」
結論としては、そんな感じになった。
エンリッヒは笑って、夕食を続けた。
三日。
エンリッヒの屋敷で目覚めてからの日数だ。
確かにここは、元々いた世界だった。
カムパネルラと過ごした日々がある世界だった。
夢を見ているわけではなかった。
連日、夢の中で呼ぶ人のことだけが、謎だということ。
それが誰なのかを探しあてるために、この三日間、色々と考えてみた。
けれども、それだけじゃ何も手がかりは見つかりっこなかった。
世界を渡ることさえ、この世界の技術ではできっこないのだし。
町も、少しだけ見てまわった。
少しと言っても、本当に少し。
屋敷の周りや、近くの川とか。
そういった本当に周辺だけを見てきた。
どうもこの町は鉱石を主流として扱っているらしい。
外の灯りは、全て鉱石を使ったものになっている。
図書館はある。
明日から通いつめてみようかと思ってはいるが、少し遠い。
何とかなるだろう。
そうだ、驚いたことと言えば、それは。
この世界の年代のことだった。
目を覚ました翌日、確認のために聞いて驚いた。
世界暦1008年、五の月。
カムパネルラや家族と旅行に出ていた時期と重なる。
まさか、とは思ったがしかし、そう考えるとつじつまがあう。
あの時期は丁度、祭りのある場所を転々と旅行していた。
だから、もしかしたら。
僕は矛盾を生む可能性がある。
同じ世界に、同じ人間が同時に存在するという矛盾を。

「お嬢様、それでは先に休ませていただきますね」
「うん、おやすみルナリア」
一礼して部屋を出て行く彼女を見送った後、僕は外を眺める。
雨が降っていた。
もうすっかりここの生活に馴染みはじめている。
でも、何か大事なことを忘れている気がしてならない。
一体、何だったろうか。
服のポケットに入っているブローチは、カムパネルラのものだってことはわかっている。
でも、このピアス。
いつものピアスではないのはわかっている。
一体、どうしたというのだろう。
形的に、対になるような、そんな感じがするものだった。
「……一体、僕は、どうしたいのだろう」
思い出せないことが、何故か悔しい。
そうして、僕は。
流れる涙を拭って、ベッドに入った。

祭りは、一週間ほどやるらしい。
多分、その祭りのどこかで、僕は彼女と一緒にあの宿に泊まる。
確か、最後の日だったと記憶している。
それまでは、どこか別のところにいるはずだ。
曖昧な記憶で、僕は思い出す。
とりあえず、ルナリアに図書館までの道のりを聞こうと思う。
そして、手がかりを探さないといけない。

結局、何も手がかりなんてものは見つからなかった。
朝から晩まで、図書館に缶詰だったのだけれども。
一日目にして、これじゃあ。
先が思いやられる。
それどころか、何もないだなんて。
エンリッヒの屋敷に帰る途中、出店の並ぶ中で。
「お嬢様、今お帰りですか」
声をかけられて振り向くと、ルナリアとエンリッヒがいた。
「あまりにも遅いから、二人で迎えに行こうってね」
エンリッヒが言い、ルナリアがこちらに駆けてくる。
「お嬢様、お腹空いたでしょう?」
「うん、もう、それはもうものすごくね」
じゃあ、帰って夕飯にしましょうか、とルナリアが言う。
「ルナリア、そのだな、その辺で何か買っていこうと思わないか」
エンリッヒが少し遠慮がちに言う。
「駄目ですよ、今夜の夕食の買い物、済ませちゃったんですから。それに、今月はちょっと厳しいんですから」
どうやら財布の紐は彼女が握っているらしい。
「や、そこを何とか、そうだ!こないだの論文の手当て金があったろ?せっかく彼女もいることだし」
横目の視線が僕に投げかけられる。
これは僕をだしに使おうという魂胆が丸見えだった。
普段ならそれに乗ることはないが、たまにはいいだろう。
僕は大いにそれに乗った。
「ね、ルナリア、僕あのお店気になるんだけどさ」
「わわわわわ、ちょっと、お嬢様ぁっ!?」
ルナリアの腕を掴んで僕は近くの出店に走る。
「もう、お嬢様ったら」
ぷんぷん怒る顔が可愛らしい。
「おいおい、ワタシを置いて先に行かないでくれたまえよ」
エンリッヒが僕にだけ見える角度で、ウィンクをした。
僕はそれを受けて、にひひと笑った。
お祭りなんだから、楽しまなきゃ。
そう思ったうえでの判断だったのだから、許してくれるだろう。

「あー、もう食べられないねこれは」
エンリッヒがキセルに火をつけながら言う。
「もう、旦那様もお嬢様も、食べすぎですよぅ」
ルナリアがぐちぐちと呟いている。
「でも、おいしかったからいいじゃない」
僕が言うと、すかさずエンリッヒが口を開く。
「まあでも、ルナリアの料理には敵わないけどね」
僕もうんうんと頷く。
「そ、そうですか?」
困ったような嬉しそうな顔をしてルナリアが言う。
照れてる顔も可愛いものだ。
「さて、帰ろうかね。今夜はもっと騒がしいからね、暴動でも起きたら大変だし」
支払いを済ませて、僕たちは店を出た。
「あー、お祭りって、いいねやっぱり」
エンリッヒが子供のように思える。
実際、僕もそう思うのだけれど。
屋敷に戻る途中で、広場を通った。
大きな火の前で、楽器隊が演奏をしているのが見える。
「おお、あれは町の青年団だよ。歌い手がいないのがたまに傷なんだがね」
「歌い手がいない?」
僕が聞き返すと、ルナリアが答えた。
「ええ。昨年まではいたのですけれど、歌い手さんがお嫁に行ってしまわれて……」
言いながら、どこか様子のおかしいルナリア。
「ルナリア、行っておいで」
エンリッヒが言うと、ルナリアは手荷物を全てエンリッヒに預けて、楽器隊のところへと駆けていく。
「え、何、ルナリア、何するの?」
僕は子供のように尋ねる。
「ま、いいから見てなさい。ほら、そこの屋台で何かつまもう」
エンリッヒに連れられて、小さな屋台のカウンター(というかただの椅子)に座る。
「とりあえず、何かつまみと酒を。マリッカ、君は何にする?」
「あ、じゃあ僕も同じので」
しれっとした顔で注文を告げる。
店の親父ははいよと返事をして、準備を始めた。
「君、子供なのに呑めるのかい?」
エンリッヒが不思議そうに聞く。
「ま、少しだけね。タバコもやるし、女も嗜むよ」
気軽に笑っていう。
「ははっ、そりゃあいいね。帰ったら是非ゆっくりとやりたいところだよ」
エンリッヒが笑って答える。
多分、冗談か何かだととったのだろう。
それでも構わなかった。
なんだか、気分がいい。
「お、はじまるぞ」
エンリッヒから、楽器隊に視線を移す。
中心に、ルナリアがいた。
「聞いて驚け、見て驚け、ってやつだ」
エンリッヒが言う。
楽器隊の演奏が始まって、ルナリアが歌い始めた。
それを耳にした周囲の連中が静まる。
大して僕は期待していなかったのだが、ルナリアの歌唱力には驚かされた。
屋敷では歌うことなんかない、メイドだというのに。
楽器隊の演奏にあわせて、歌うわ歌う、踊って跳ねての大舞踏。
綺麗な歌声に、僕と周りの客は聞きほれた。
まるで、今この世界に彼女しか存在しないかのように。
ルナリアは、歌った。
その姿に、僕は何かを見た気がした。
とても大切な、何かを。
夢の中の、人がちらつく。
一体、これは、何なんだろうか。

「すごいね、ルナリア!僕感動しちゃったよ!」
帰り道でのことだった。
「そ、そうですか?そんなに言われると、恥ずかしいですよ……」
赤い顔をしたルナリアの腕を抱いて歩く。
「うむ、相変わらずいい歌声だったぞルナリア。大儀だった」
エンリッヒが誉めて、ルナリアは更に顔を赤くする。
「もう……」
ルナリアは駆け出して、先に屋敷に入っていった。
「照れてるね」
「ああ、照れているねあれは。昔からそうだ」
僕もエンリッヒも、なんだか穏やかな気持ちだった。
ゆっくりと歩く。
屋敷はすぐそこだったから、急ぐ必要はなかった。
「そうだ、そういえばマリッカ、君は何故図書館にいったんだい?」
急に思い出したかのようにエンリッヒが言う。
「え、あー、うん、それは」
真実を言うべきか?
ここまでよくしてくれている二人。
見ず知らずの僕に、理由を聞かずに屋敷に置いてくれている。
そんな、優しさに甘えているだけの僕は。
真実を、言うべきなのか?
騙していると言っても、過言ではないのに。
「どうした、マリッカ」
ひょいと身体をもちあげられる。
「え、ちょっと、エンリッヒ!何するんだよ!」
そのまま肩車されて、僕はその状態で落ち着いた。
「いや、肩車してみたくてね」
はははと笑っているエンリッヒ。
駄目だ、この人酔ってるよ。
「……実は、その」
「まあ、言いたくないなら言わなくてもいいよ」
言おうとしたところでそう言われて、バランスを崩しそうになる。
うまいことエンリッヒが身体を傾けてバランスをとった。
「各々、理由があってそこにいるんだからね。君も、浜辺で倒れていたってことは何かがあったってことなんだろう?」
淡々と語るエンリッヒ。
「……うん」
僕はなんだか、申し訳ない気持ちになった。
「だから、いいんだよ。いつか、いつでもいいんだ。言ってくれるなら、それでいいし、言わないんだったらそれでいいんだ」
「……ありがとう」
「お礼なんていいのさ」
エンリッヒはそう言うと、僕を担いだまま走り出した。
「早く家に帰って、ルナリアの淹れてくれる紅茶を嗜もうじゃないか」
まるで、本当の子供のようなこの人を。
僕は信じたくなったんだ。

翌日の朝は、ひどいことになった。
「さあ今から呑むよ!ルナリアも一緒だ!」
と、エンリッヒが言ったので、朝が来るまで飲み明かすことになったのだ。
おかげで二日酔いもいいところ、気分が悪すぎて、動くことすらままならない。
頭痛も酷いし、これはどうしようもなさそうだ。
「お嬢様、お休みになられるのでしたらお部屋で」
ルナリアに言われるが、それどころではない。
「……無理、動くと、吐きそう……」
ソファから動こうとすらしない僕を見かねて、ルナリアが毛布を持ってきてくれた。
「では、よくなられるまでこちらでお休みになっていてくださいね」
そっと毛布をかけて、そのまま仕事をしはじめるルナリア。
どうも彼女は、ざるらしい。
呑んでも呑んでも、酔うことのない。
羨ましいよ、本当。
気分の悪さをおさえるべく、ひと寝入りしようとして。
頭痛もきていたことに気づく。
これは寝るのに相当な時間がかかるだろう。
僕はとりあえず、目を瞑った。

「マリィ」
夢の中だ。
また、同じ夢だ。
「こっち、よ、マリィ」
僕を呼ぶ声。
今度ははっきりと姿が見える。
「マリィ、はや、く」
一人の少女。
見覚えのある少女だ。
僕のものと似た形のピアスをしている。
カムパネルラではない。
ルナリアでもない。
「マリィ」
僕を呼ぶ、その声に。
答えるが、声が出ない。
探していた。
彼女を探していたことを。
守ると約束したのに。
離れてしまったことを。
互いに、交わした言葉があったのに。
「マリィ、愛して、います」
名前が、思い出せない。
すぐ目の前にいるのにも関わらず。
僕は。
微笑む彼女を前にして。
手を伸ばすが、届くことはなく。
彼女は遠ざかっていく。
ああ、待っておくれ。
僕の。

僕の愛する。

「お嬢様、お嬢様」
身体を揺さぶられてハッと目を覚ます。
「あ……ゆ、め?」
夢、だった。
「よかった、お目覚めになられて」
僕の顔を覗きこむルナリア。
「うなされていたから、心配になったのですよ」
「うなされて、たの?」
僕は掠れた声で聞き返す。
「はい、それにうわ言で誰かを呼んでいらっしゃったようですが……」
酷いものだ。
夢でうなされるだなんて。
「呼んで、た?なんて言ってた、僕」
「ええと、確か……ハインとか、ハイネとか」
ハイネ。
「……ハイネ?」
反芻した言葉に、記憶が紡がれる。
忘れてしまったはずの記憶が呼び覚まされていく。
「はい、そうだったと思いますけれど……悲しい夢だったのですか?」
「え……?」
ルナリアの手が、僕の頬を優しく撫でる。
「涙が流れておりますよ、お嬢様」
ルナリアの手がある方とは逆を自分の手で触れる。
確かに、涙が流れている。
「ハイ、ネ……」
そうか。
そうだったのか。
全てを思い出した。
「ただいまー……っと、どうしたんだい二人とも」
部屋に入ってきたエンリッヒが、こちらを見て驚く。
「何かあったのかい……って、何を泣いているんだマリッカ」
優しく頭を撫でてくれるエンリッヒ。
「ん……思い、だした……ぐす……」
「思い出した?何をだい、マリッカ」
エンリッヒが優しく声をかけてくれる。
ソファの空いているスペースに腰掛けて、僕を優しく抱いてくれる。
「僕、約束、したんだ」
ルナリアが部屋のポットで紅茶を淹れてくれている。
「約束か。誰とだい?」
諭すように、まるで父親のようにエンリッヒが問う。
「好きな子を、守るって、ずっと、離れないって……それなのに、それ、なのに」
涙が止まらず、僕は泣き続ける。
優しく僕を抱きしめるエンリッヒ。
紅茶をテーブルに置いて、僕を挟むような形で、ルナリアが隣に座る。
「泣かないでお嬢様。その方は、今どちらに?」
優しい音色の声。
僕は彼女のことを思い出す。
「……違う、世界に置いてきた。会いたい。会いたいのに……もう、会えないんだ」
幼児のように泣きじゃくる僕。
僕の言葉を聞いても、驚く様子のない二人。
もう戻れない。
向こうに戻るてがかりすらないからこそ。
ルナリアが、僕の背から抱いてくれる。
僕とルナリアを包むように、エンリッヒの大きな肩が抱いてくれる。
久しく、感じえることのなかった感覚だった。
僕の中で、この温もりに感謝したい気持ちと、ハイネに会いたい気持ちと、もう向こうの世界に戻れないという悲しさが入り交じっていた。



そうして、それから四日後。
僕は一つのチャンスに巡りあうことになった。
界渡りの列車の噂を、聞いたのだ。









PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Copyright © その数秒を被写体に : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]

管理人限定

カレンダー

03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30

フリーエリア

最新コメント

[11/11 りょ]
[11/20 Mes]
[11/16 りょ]
[10/14 朋加]
[09/29 朋加]

最新記事

(05/20)
(05/15)
(05/11)
RAY
(05/11)
(05/09)

最新トラックバック

プロフィール

HN:
ikki
性別:
非公開

バーコード

ブログ内検索

P R

カウンター

アクセス解析