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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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それでも世界は生きているから 『世界再開のお知らせ』

世界を創ったのが神であるのなら、この地に産まれた私は神のこどもなのでしょうか。
わたしが目を開いたのは真っ暗な闇の中でした。
頭上には丸く輝くものがあった。
それに対して私は畏怖を覚え、声をあげた。



オルフェウスがこの世界に与えた影響は多大なものだった。
建物は崩れ、草木は枯れて海は干上がりその面積を大きく変えた。
だが、人体にとっての何らかの影響はまだ確認されていない。
人々は生きていた。
オルフェウスのその形を見たものは誰一人としていない。
実は何も衝突してはおらず、地震が起きただけだとか。
異性人の透明な宇宙船が墜落したとか。
そういった類の噂がまことしやかに流れている。
陸地の面積が変わったことにより、四塚たちの住む国の大きさも多少変わった。
とはいうものの、暫定政府(形だけ。現在は住居のない国民を保護している)による調査が済んでいないので誰も入ることはできないのだが
死人が出たとの情報は、どこにも入ってきていない。
全世界を通じて、オルフェウスの影響で住居をなくしたものはいたものの、死んだものがいるという報告はされていないのである。
これは奇跡か、はたまた何かの必然か。
どちらにしろ、今は生きていかねばならないのが彼らにとっての唯一の道なのである。



深い森の奥。
縄文杉がその巨体を更に天に向けていかんとする屋久島。
そこで、一つの命がこの世に生をうけた。
木々がざわめき、命は声をあげた。
鈴の音が鳴り響き、山々は喚起し、海は唸りをあげて、空には月が煌々と輝いていた。
それは人の形こそしているものの、人から産まれたものではなかった。
しかし他の動物から産まれたものでもない。
母胎と見られるものは存在していなかった。
それの出てきた大樹の室を、その命を産みだした母胎として認識するのならば、それにとってその大樹が母となるのだろう。
それの周りには、幾千もの種族の動物たちが集まっていた。
みな、それの誕生を待っていたかのように、それを取り囲んでいた。
この国では見受けられない動物もいた。
動物園から逃げ出してきたのか、はたまた海を渡ってきたのか。
それは祝福されていたのだ。
人ならざる者すらいた。
木々には多くの鳥類や小動物が留まり、大地には地を闊歩する大型動物までいた。
それは疑問を抱くようにして周りを見渡した。
おもむろに立ち上がって、天を仰いだ。
月だ。
月が頭上からそれを照らしていた。
突然の咆哮。
鈴の音は鳴り止み、動物たちも人ならざる者も頭を垂れた。
それは人の形をとっていた。
体つきは人間でいうところの成人ではあるが、均衡のとれた男とも女ともとれない体つきをしている。
二度目の咆哮で、それは世界を揺るがした。
それは、後に異種王と呼ばれる存在だった。



話を本題に戻そう。

世界が崩壊して、三日後。
四塚は葵と共に旅に出ることにした。
人々を救いながら、旅をしようと決めたのだ。
全国各地を廻っていれば、誰かしら再会できるだろう、という考えだった。
そうして進めた歩みを、すぐに止めることになるのは、まだまだ先のお話。
世界は崩壊して、それでもまだその命をなくすことはなかった。
ただこの世界に与えられたダメージは決して小さくなかった。
まだ何も終わっちゃいないのだと、四塚は確信していた。
この世界で。

俺たちは歩みを進めていく。
形はどうあれど、こうして世界は優しく俺たちを包んでくれるのだから。



※    ※    ※    ※    ※



僕は一体どうしたのだろうか。
気がつけば、ベッドの上にいた。
このベッドに見覚えはない。
しかし、この雰囲気は懐かしい。
窓の外は、見慣れた風景。
見慣れた、風景?
「あら、起きましたか」
ドアの開く音と共に間延びした声が聞こえた。
若い男が一人立っていた。
「はは、ちょうど皆出払っていましてね、ワタシしかおらんのですよ」
手には、丸盆、その上にはティーカップと軽い食事がのっていた。
「おや、喋れない、とかではないですよね?」
「……あ、あんた、誰なんだ」
「誰とは、まあ、そうですよね。目が覚めたら素っ裸でベッドの中で、しかもこんな若い男が軽々しく声をかけるのですものね。大丈夫、ワタシは子供には興味がないので」
ぺらぺらとよく喋る男だ。
って、素っ裸?
思わず自分の身体を見る。
「……ええええええええええええ!!!!!!????何で!?何で!?」
シーツを一気に手繰り寄せて、あらわになっていた胸元から下を全部隠す。
「ははは、元気なお嬢さんだ。あなたの服はそこの壁にかけてある。食事もここに置いておくから、話は後からにしようか」
男は笑って部屋を出て行った。
屈辱だ。
あんな男に、嫁入り前の身体を見られるだなんて。
僕の身体を見ていいのは、〇〇〇だけなのに。
「……誰だ、〇〇〇、って……?」
ぼんやりと記憶に残っている姿。
でも、その子に関しては何も思い出せない。
名前だって、姿だっておぼろげな記憶だ。
僕は、とても大切な何かを忘れてしまったような気がする。

「改めて自己紹介をば、させていただこうと思います。ワタシがこの館の主である、エンリッヒ・メートゥ・ハイトラインです。よろしく、お嬢さん」
握手を求める手を無視して、僕は名乗る。
「……マリッカ。マリッカ・スク……」
そこまで言いかけて考える。
この世界が僕の想像と同じならば、きっと。
「マリッカ・スクランディ、です」
スクラヴァ家の名を名乗るのは、危険だ。
すぐにあいつらが来るだろう。
それだけは、勘弁願いたい。
記憶も、いくつかなくなっているような感覚がある。
「ええ、こちらこそよろしくおねがいしますよ」
エンリッヒが言うには、僕は浜辺で倒れていたらしい。
それをエンリッヒの屋敷のメイドが見つけて、ここまで運んできてくれたとか。
屋敷といっても、そう大して大きくないようだ。
僕の家よりは、断然小さい。
「しかし、よかった。目を覚まさなかったらどうしようかと思っていたところでしたからね」
エンリッヒは紅茶を淹れてくれていた。
それをありがたくもらって、僕は言う。
「助けてくださって、ありがとうございます」
「ああ、礼なら彼女に言ってくれたまえ」
エンリッヒがパチンと指を鳴らすと、ドアを開けて一人のメイドが入ってきた。
「紹介しよう。メイド長のルナリアだ」
ルナリアと呼ばれた女性は、僕に向かって深々とお辞儀をした。
背中の途中ぐらいまである黒髪、身長は僕より少し高いぐらいか。
まるで、誰かに似ているような。
「と、これからワタシは出かけなければいけないのでね。すまないね、また明日話をゆっくり聞こうと思う。後は任せたよルナリア」
エンリッヒはルナリアの肩をたたいて、部屋を出て行く。
「……えっと、ルナリア、さん?」
気まずい空気を先にぶち壊して、とりあえず敬称つきで呼んでみる。
「はい、お嬢様。さん付けだなんて、とんでもございません。ルナリアで構いませんよ」
にっこりと笑う彼女。
よかった、いい人そうだと思いつつも、その笑顔も誰かに似ている気がした。
「あ、じゃあ、ルナリア」
「はい、何でしょうお嬢様」
またにっこりと返してくれる。
あーなんだ、可愛いなこの人。
「その、僕もお嬢様ってのは慣れてないんだ、だから、マリッカでいいよ」
「そんな!それこそとんでもございません!お嬢様は、お嬢様ですから」
うーわー、この人仕事は仕事、プライベートでも仕事に関することは仕事って言いそうだよ。
「あ、そう……」
まあ気にしないでおこう。
「ね、地図とかある?この辺、どこになるのか全然わかんなくてさ」
「地図、ですか?確か、ここの棚に……」
ルナリアは部屋の隅にある棚をがさごそと漁る。
「あ、ありましたよ」
埃を被った地図を、テーブルの上に広げる。
「うっわ、これ古いね……」
「ええ、ご主人様のお気に入りのものでして……ここ、がこのお屋敷のある町ですよ」
ルナリアの指した、大陸の右下の辺り。
地図をぐるっと見る。
やはり、ここは僕のいた世界だ。
そこから辿ると、大分北の方に僕の飛び降りた崖がある海岸があった。
「そっか、じゃあ僕、こんなにも流されてきたんだ……」
「流されてきたのですか?」
興味ありげに聞いてくるルナリアに、僕は一部を隠して伝えた。
カムパネルラのこと、追ってきた男のこと、崖から飛び降りたことなど、知られてはまずいことを。
「そうだったのですか……ですから、あの時浜辺で」
どうも僕を見つけてくれたのがルナリアらしい。
「うん、ルナリアが見つけてくれなかったら、今頃死んでたかもね……」
感謝するよ、と一言だけ言って、窓の外を眺める。
覚えていることと、覚えていないことがある。
アラカンサスたちに追われて、崖から飛び降りたことは記憶にある。
そして、違う世界に飛ばされていたのも覚えている。
しかし、あの病院で誰と出会ったのかが思い出せない。
誰か、とても大事な誰かと出会ったような気がする。
あの子は、一体。
「うっ……」
思い出そうとすると酷く頭が痛む。
「どうなされましたお嬢様、大丈夫ですか?」
ルナリアが僕を覗き込んで心配する。
「う、うん……」
「まだ休んでらした方がよろしいのではないでしょうか」
ルナリアに先導されて、僕はベッドに戻った。
「それでは、何かありましたら、このベルでお呼びくださいね」
枕もとのサイドボードの上にベルを一つ置いて、ルナリアは部屋を出て行った。
頭痛は続く。
気分も悪い。
まるで、思い出させないように仕向けられているかのような。
そんな気配を感じて。
僕は呼ばれるように眠りに落ちた。

「……リィ……」
誰かの声がする。
「……マ…………リィ……」
呼ばれているのか?
「マリィ……マリィ……」
呼ばれているんだ。
誰なのかもわからないけれど。
囁くような声で。
綺麗な声で。
僕を呼ぶ声が。
夢の中で、ずっと。

僕を呼ぶ声が、響いていた。



※    ※    ※    ※    ※



ざーざーと音の流れるらじお。
「あー……き……す……」
ノイズに混じって聞こえる声。
「あー、あー……」
だんだんとはっきりしてくる声は、男のものなのか女のものなのかすらわからない。
ふとそのラジオの前を通りかかった少年がいた。
少年はそのラジオに興味を持った。
「きこえ……もいい……」
流れる音が、自分のわかる言葉でないとわかっていても、少年はラジオを拾った。
スラムの解体屋のところに持っていけば、腹の足しにはなるぐらいの金をくれるだろう。
そう理解して、少年はラジオ片手に歩き出した。
「……」
ラジオは音を流し始めた。
少年はそれに耳を傾けるが、足を緩めることはしない。
急に音が鮮明になり、声がはっきりと聞こえた。
「あー……僕の声が聞こえますか。僕の声が」
曲をバックに、ラジオは喋る。
「誰か、生きてる方はいらっしゃいませんか」
それは、人類を、崩壊した世界から救わんとする声。
「いたら、もしいたら」
急に音が崩れ始めた。
でも少年は気にすることはない。
今夜の夕飯をもうすでに決めようとしているところだったのだ。
「……ぼくたちを、たすけてく」
ぶつんと音がしてラジオは声を発さなくなった。
ノイズだけが鳴り響く。
しばらくしてまた、曲が流れ始めた。
曲だけだった。
先ほどと同じ曲。
曲目は、パッフェルベルのカノン。
誰もが一度は耳にする曲だった。
しかし、夏とは言え、この暑さはないだろう。
いくら北海道とはいえども、ここまで暑いのもどうかと思うが。
それもそうか、と圭は考える。
地域的な問題で言えば、もう寒いはずなのだ。
オルフェウスの影響で、海が干上がってしまっただなんて。
誰も考え得ぬことだったかもしれない。
別に、いいのだけれど。
幸い生きていることができたのだ、文句は言うまいと藤宮圭は思う。
ラジオから聞こえてくる声は、きっと誰かが勝手に流しているのだろう。
本当に助けを求めているというのなら、探さなければいけないとも思う。
しかし今は遼に頼まれたお使いをしないといけない。
目下、生きている人の集落を探すことだ。
それから、ガソリンスタンドも探さないといけない。
せっかくの愛車であるカタナが台無しである。
まあ、ゆっくり行こうか。
「おーい、まってー」
後方から聞こえてきた声に振り向くと、遠くに小さな影の遼が見えた。
しかもカタナを押してきたようで、もうへとへとな顔をしているし、足取りもおぼつかない。
「え、うっそ、なんできたんだよ、俺一人でいけるって言ったのに」
駆け足で戻って、もう疲れて倒れそうな遼を支える。
「へへ、だって、ほら、圭のこと、心配だし」
息を切らして肩を上下させながら、彼女は言う。
えへへと笑う彼女の笑みに弱い自分を、呪うことはない。
しかし、無理をするのは彼女なのだ。
「……あーあー、しかたねえな本当」
しゃがみこんでいる遼をよそに、まずカタナのスタンドをたてかける。
エンジンをかけて、遼を後部に乗せる。
「……いいの?後ろ、乗せてくれないんじゃなかったの?」
遼の問いに、答えずにシートにまたがる。
「ねえ、圭、何とか言ってよ」
「俺は」
遮るように言う。
「バカだから、お前を置いてきたんだ」
声のトーンが裏返る。
でも遼は笑わなかった。
「何かあったら、俺、何もしなかった自分を悔やむから。もう置いてくわけにはいかないから」
アクセルを回す。
いい調子だ。
マフラーから白煙があがる。
「だから、一緒に行くんだ」
切ったクラッチを繋ぎ、アクセルを回した。
走り出すカタナ。
急な発進に、遼はぎゅっと俺の身体を掴む。
「しっかりつかまってろよ!」
クラッチを蹴り上げ、ギアをあげて。
だだっ広い道を、猛スピードで走り出す。
誰も止めることはない。
「……ありがとう。そんで、ごめんな」
ぼそっと呟いたのが聞こえたのか、遼が聞き返す。
「なにー?何か言った?」
「いいや、何でもない!」
さらにスピードをあげて、風をきって走っていく。
天高く、太陽が照り続ける。
圭は、遼を連れてその道を走り続けた。
目的地は、ラジオを流している奴のいるところだ。



※    ※    ※    ※    ※



世界は崩壊した。
大地は割れて、海は自身を蒸発させ、国の形は大きく変わった。
生きている人間は、地球に残った者たちのみ。
地球の外へと出た輩の生死はいざ知れず。
誰もが絶望に泣いて希望に笑みを零したその日。
世界は崩壊から遠ざかっていった。



「……ここ、も、だめな、のかな」
あの日、オルフェウスが来た日。
オルフェウスの光に包まれて、私は意識を失った。
目が覚めた時、私は一人だった。
外に出て、その光景に思わず声をあげた。
病院に居たとき、少しだけれど声を出すことができたけれど。
それよりもはっきりと。
「さが、さなきゃ」
私は、その喉を自分で切り裂いたのに。
奇跡だと言われた。
命に別状はない、だが歌うことは愚か、もう二度と喋ることはできないとまで言われた。
それなのに。
私の声は戻った。
でも、大事なことを忘れてしまったような気がする。
「どこ、にいったのか、しら、〇〇〇」
私の名は、水嶋ハイネ。
かつて歌姫と呼ばれた存在。
「この、せーかーい、でー」
ハイネは歌う。
「こ、のせーかー、いーでー」
喉の傷は、痕さえ残っているものの喋ることも歌うことも問題なくできる。
大声をあげることだって。
泣くことだって。
叫ぶことだって。
私は今、歌うことができる。

私は、誰かを探している。
私のことを、私の話を聞いてくれたあの子を探していた。
その子のことが思い出せないでいた。
誰だったのだろう。
ぼんやりとしか思い出せない、あの子。
とても大切だったように思える、あの子のこと。

考えると何故か悲しくて、泣き出しそうになってしまうけれど。

私は、探さなければならない。
失ったものを、一つずつ。
探すことにしたのだ。






「それでも世界は生きているから」   開  始 

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