君が恋に恋するような子じゃないってわかってるから、僕は全力で君を好きでいられるんだよ。
「6Pチーズってあるじゃない。あれって何だか卑猥な名称だよね」
持っていたお皿を床に落としそうになり私は慌てた。幸いお皿には何ものっていなかった。とりあえずお皿を流しに置いて、諫火さんの言葉を反芻する。
「いきなりそんなことを言い出すなんて……」
少しだけ凹み、私は顔を両手で覆った。
何だか最近、諫火さんがおかしい。どこからおかしいのかと聞かれれば、最初に出会った時からおかしかったけれど。
「あ、梓敦は苦手だったっけ、この手の話は」
あからさまに今思い出したよごめんごめんとでも言わんばかりに、彼は笑う。
もう、なんて謂うか連日セクハラだ。本当勘弁してほしい。まるで子供みたいに笑って言うのだから余計に質が悪い。その笑顔もまた、私が諫火さんを好きである所以だった。
「そんなことより、熱の方はいいんですか」
今日は、滅多に来ることのない諫火さんの部屋に来ている。一人で暮らすには広すぎるぐらいの部屋だ。荷物も乱雑に置かれているだけで、使っていない部屋がいくつかあるらしい。
「ああ、大丈夫みたいだよ」
諫火さんとのデートの約束をしていた今日。
昨日の夜に連絡があって、風邪をひいたみたいだと言われて、予定はなくなった。
なくなった予定の代わりに、諫火さんのお見舞いに時間をあてたのだけれど。
どうも、この間から下ネタをよく会話に挟むようになってきている。私が苦手なのを知っていて、彼は言っているのだ。そこのところ、どうにかしてほしいのだけれど……。
「梓敦が来てくれたから、熱はさがったよ」
またそんなことを言って、この人は。
「うそ言わないでください。顔真っ赤ですよ。薬飲んで、横になっててください」
見た感じでは体調はよさそうだ。顔は仄かに朱がさす程度ではあるが、身体を起こせるぐらいに体力は有り余っているようだった。しかし私は気が気でない。何せこの桐島諫火という人は滅多に体調を崩さないことで有名らしいのだ。らしいというのは、聞いた話だからである。そもそもその話の根元は諫火さん本人であるのだけれど。
「梓敦、ちょっとこっち来て」
キッチンからグラスをとってきたところで呼ばれて、諫火さんのもとへ。
「つーかまーえた」
ばふっと布団を頭から被せられて、私の視界は遮られた。そのまま何もわからないうちにごろごろと転がされて、視界が明瞭になった時には私は諫火さんの隣で寝そべっていた。
「というわけで、一緒に寝よう」
ニッコリ笑顔の諫火さんと、口を尖らせる私。
「……添い寝してほしかったんですか」
声が少し低くなった。
「ま、そうだね、うん。正解」
悪びれる様子もなく彼は言う。
やれやれ、と私は思う。
まるで子供みたいだこの大学生。でも、そんなとこも私は嫌いじゃない。
「変なこと、しないでくださいね」
うん、大丈夫と頷く彼だが、果たしてどこまでが真実なのだろうか。信じていないわけではないけれども。
子供をあやすように、私は恋人を寝かしつけた。つもりだったが、いつの間にか一緒に眠ってしまっていた。
目を覚ましたのが、門限を三時間も過ぎたころだったのはまた別のお話だ。
続々々々 少女と、
『諫火さんが風邪をひいたようです』