大体、読んだものの最初の一文を覚えているなんてことは滅多にない。内容を思いだそうとしたところで、印象に残った部分でさえイマイチ出てこない。
それを前提としたら、自分が読んだ本なんか、何のために読んだのかということになる。勉学の為か、はたまた単なる暇つぶしか。どちらにせよ、私は昨日読んだ書物の内容は思い出せても、最初の一文が何であったか思いだせないでいる。
ならば私はどうすればいいか。答えは明確であった。それは単純なことで、最も簡単な答え。
もう一度その書物を開き、最初の一文を読めばいいだけの話だ。
私はそれらを踏まえた上で、こう言うのだ。
「だから、覚えておかなくてもいいの。一字一句覚えておく必要はないわ。そこにその本があるのだから、わからなくなったらもう一度見ればいいの」
湖のほとりで、湖面に溺れる人を見ながら。
「でも残念、私はもうあなたには会えないし、あなたは私には会えないのよ」
見渡す限り、森林に囲まれた湖のほとり。私は溺れている人を助ける術もなく、ただ見ているだけ。夢ではない現実に起こっている現象だった。
不思議と、辛い感じはしなかったけれども。私は涙を流していた。
何とも思うことはないのに、涙が流れるだなんて。
私はそれをただ嘆いていた。