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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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咲き誇る華のように。

二本の糸が交わる点に、二つの星が流れてから、もう四年が過ぎた。いつまでも一人ではいられないと思っていた矢先に、吉報が届いた。
幼なじみの仄香が帰ってくると聞いたのだ。
それが先週のことで、今日は内緒で駅まで迎えに来た。
俺は親の仕事の手伝いをしていて、今までずっとここにいた。仄香は中学まではこちらにいたのだが、高校にあがる際に街の高校へと進学していくと共に寮に入っていった。
中学を卒業して、もう四年。
高校卒業後、仄香は大学へと通い、俺は親の仕事を手伝いながら仕事をしている。親はこの辺りの地主で、主に茶葉の畑を設けて生活をしている。
仕事は収入の安定性を求めて、この村の役場の職員だ。
今日は休み、そして久々に会える幼なじみのことが懐かしくなってしまい、迎えに来たという寸法だ。

そんな俺にも、なりたい職業があった。
画家だ。
昔から絵を描くのが好きで、画家になろうと決めたのは中学一年の時。県の絵画コンクールに出したのがきっかけだった。
ただの風景画を描いただけのつもりが、そのうまさが審査員の目に留まって、大賞をもらったのだ。そこからが始まりで、ある意味一種の終わりだった。

電車を待ち続けて、六時間。
始発から飲まず食わずで待っているのでもう空腹を我慢できそうにない。
空に浮かぶ雲が食べ物に見えてきたころ、一両の電車が来た。
虚ろな目で電車を見つめて、人が降りてくるのを確認する。
コートを着た女性が二人、ホームを抜けてきた。
見覚えのある顔。
どことなく、昔から知っている顔立ち。
仄香だった。
もう一人は、すらっとした背の高いやつだった。ぱっと見男かと思ってしまったが、服装からして女性であることは明白だった。楽しそうに二人は喋っていた。
俺は意識を覚醒させて、仄香に声をかける。
「お、おい――」
俺に気付いたのか、彼女はこちらを見て一度立ち止まる。
「遅かった、じゃないか」
ゆっくりと近づいてくる彼女の仕草は、相変わらず変わっていない。
「……ひょっとして、泰明君?」
恐る恐るといった感じで、仄香は俺をまじまじと見る。昔から、じっくりと相手を見ないと認識できないやつだったなと今思い出す。
「久しぶり、元気してた?」
俺がそう返すと仄香の顔が明るくなる。
「やっぱり泰明君だ! 久しぶりだね、今日はどうしたの?」
「や、どうしたって、ほら」
俺が続きを言おうとしたところで、ずいっと仄香を庇うように人が間を割ろうとした。
「ふむ、君か、君が」
上から下から舐めるように、そいつは俺を見た。
「な……あんた、誰だよ」
そいつは仄香と一緒に電車を降りてきたやつで――ゆうに、仄香と頭三つ分ほどの身長差があった。俺より大きい。
「あ、紹介するね、こちら、同じ大学の」
割って入るかのように、仄香が言って、それに間髪入れずにそいつが告げた。
「高千穂、高千穂和泉です。お話は兼ねがね伺っていますよ、飯倉泰明君」
高千穂と名乗ったそいつは、にっこりと笑った。
何だか威圧感を覚えて、一瞬何をしにきたのかを忘れてしまった。
「それで、泰明君はどうしたの?」
まるで何もなかったかのように仄香は言う。
「あ、ああ、おばさんに聞いて、m」
「大方、仄香の親御さんにでも話を聞いて迎えにきたというところだろう?」
途中で言葉を遮った挙げ句、高千穂は俺に確認までしてきた。何だこいつ。完璧に出鼻を挫かれてしまった。
「……あ、ああ、迎えに来たんだよ」
それでも負けじと俺は言う。
「ほら、荷物持つから」
ほとんど無理矢理に仄香から荷物を預かって、歩きだそうとする。
「泰明君待って、和泉ちゃんのもお願い」
えっ、と心の中で思ってしまったが、それを顔に出す訳にはいかなかった。
「……ほら、貸せよ」
「いいのかい? 結構重いよ?」
たかだか旅行カバンの一つや二つ、持てない訳がなんだこの重たさは!?
高千穂からカバンを預かってすぐに、俺はそれを地面に叩きつけるぐらいの勢いで落下させた。
「ほら、だから重いと言っただろうに」
いや、桁違いだよその重さは。
「重すぎだろ……」
「泰明君、カッコ悪い」
仄香がくすくすと笑っていた。
仕方ない、という表情で高千穂が二人分の荷物を背負う。
「行こうか、ほら、案内してくれ」
まるで誇らしげに俺を見て鼻で笑う高千穂。
腹立たしいのはおいといて、何か気に食わない。
それでも俺は、屈することなく先を歩いていく。
期待していた俺がバカだったのだろうか。
仄香は俺の後ろで高千穂と並んで歩いている。
軽々と荷物をもたれたせいで、俺の立場なんかなかったのだ。
少しだけ振り返って、二人を見る。
楽しそうに談笑する二人を横目に、少しだけ早足で歩いて距離を空けた。
少しだけだから、気づかれることはないだろう。
笑う声が、冬の空に響く。
もうクリスマスも終わって、三日が経った日のことだった。

その夜は、俺の家で食事会を開くことになっていたらしい。
らしいというのは、俺は開始早々からやけになって酒を呑んで酔っ払いになっていたので、記憶が曖昧なのだ。でも、覚えていることは一つだけある。
寧ろそれが夢であってほしいと思えるだけ、まだマシなのかもしれない。
日付が変わったころだったろうか、ふっと目を覚まして、酷い有様になっている居間の様子をぼーっと眺めた。
親父もお袋も、爺ちゃんも婆ちゃんも仄香の両親もみんなして死んだように眠っている。
これは何があったのだろうか、と思わされる惨状ではあるが、俺の中での答えは一択だった。
A:みんな、酔いつぶれて寝ている。
その後、シャワーだけでも浴びて寝ようかと思い風呂場へとふらふらになって歩いていった。
そこで見たものが衝撃的で、きっとこれから先忘れることのできない瞬間になったのだろう。
「……あー、気持ち悪……」
あまりにも呑みすぎたのだろうか、いつにも増して気分が悪い。
普段が呑まないせいもあってか、余計にまわりやすいのだと思う。
壁伝いに風呂場へと向かう。さっとシャワーを浴びれるように、上着を脱ぎながら向かう。
洗面所の明りが漏れているのに気づいたのは、風呂場の扉の前まで来た時だった。
「ん……っ……」
上着を洗面所の床に投げてからふっと、シャワーの音に紛れて誰かの声が聞こえることに気づいた。
洗面所には誰もいない。
代わりに風呂場に誰かがいるようだ。
酔いの覚めきらない思考と、好奇心が俺の理性を押し殺した。
よく見れば、バスルームの扉が少しだけ開いている。
ガラス越しに映る影には、見覚えがある。
あの背の高さは、きっと、高千穂だ。
仄香の連れてきた、大学の友人であるとかいう生意気な女。
シャワーを浴びているだけなのに、やけに身体を動かしているのがわかる。
足元に転がっている脱ぎ散らかされた衣類の数に、違和感を覚えてしまう。
高千穂の衣類と一緒に、仄香の着ていた服までもが無造作に脱ぎ捨てられている。
「……?」
声に出すことはなかったが、そこで少しずつ思考が回復してきた。
脳内で何かが繋がる。
心臓が高鳴るのがわかった。
ドクン、ドクン、と。
恐る恐るその隙間をじっと見つめていた。
やはりシャワーに紛れて声が漏れてくる。
信じがたいが確認しないことには何も始まらない。
そう思ったところで、高千穂と、もう一人の姿がガラスに映る。
俺は硬直した。
その身長差は、昼間に見たものと同じ。
紛れもなく、高千穂と彼女−−

高千穂と口付けを交わす仄香の姿がそこにはあった。




目を覚ましたら昼を過ぎていた。
まだ痛む頭を無理やり起こして、部屋から出る。
すると、同じタイミングで高千穂が出てきた。
何でこいつがうちにいるんだと思ったが、そういえばこっちにいる間はうちに泊まるとかいう話だったかなと思い出した。
「ああ、おはよう、泰明」
呼び捨てかよ、と心の中で思って、軽くスルーしてやる。
「おはよ……」
ぶっきらぼうに言って階段へと向かおうとすると、背後から声がかかる。
「夜中、見てたんだろ?」
夜中?
急にそんなことを言われて、俺の足が止まった。
「何のことだよ? 俺は目ぇ覚ましてからは、すぐに部屋に戻ったぜ」
しらばっくれる以外の道がないと思い、俺は適当に言葉をつむぐ。
「ああ、そう。じゃあ、そうだな、洗面所におかれていた君の上着は、何だったのかな?」
「上着? ああ、だったら母さんがもっててくれたんじゃねえの? 俺酔ってたから、脱いでたんだろ」
振り向かずに答えて、反応をうかがう。
これでも何か言われるようだったら、昨日覗いたのがばれてしまう(不可抗力だという説もあるが)。
「いやあ、それがね、お母様に聞いてみたら、君は酔っ払っても脱ぐような癖なんかないそうだ。それに、上着を持っていったのがお母様だとしたら、洗濯籠に入れるはずだろう?」
痛いところをちくちくと突かれて俺はいてもたってもいられなくなる。
というか、何だこの気分は。
「……だったら、なんだってんだよ」
顔だけで振り向いて、高千穂をにらみつける。
ニヤリと笑って、高千穂は俺を部屋に来るようにと促す。
「教えてあげよう」
部屋に戻っていった高千穂についていく気もしなかったが、俺は何かを確かめないといけないと思っていた。
気は乗らないが、少ししてから部屋に入っていく。
空いている部屋とはいえ、こちらに来るということで俺が片付けた部屋だ。
ちょっとしたバンガローほどの広さがあるし、何より俺の部屋よりは広い。
その部屋を二人で使うようにとあてがったのは、母の命令だ。
俺は部屋の片づけをして、親父は部屋の補修をした。
長年使っていないと、あちこちガタが来るという話である。
二人の荷物が部屋の端に置かれて、ベッドにはまだ仄香が眠っていた。
「仄香、起きて、泰明が来てるよ」
ベッドに腰掛けて、高千穂が仄香の身体をゆする。
「んぅ……」
ゆっくりと寝返りをうって、仄香は起きあがる。
「ふぁ……泰明君、おはよう……」
眠たそうに目をこする仄香。
昔から朝が弱いやつで、俺がよく起こしに行ったなあと記憶が蘇ってくる。
「ほら、隠して」
仄香の身体をシーツで包み、そのまま抱き寄せて高千穂はこちらを見る。
「……で、なんだよ、俺に何か話があるんだろ?」
苛苛してきたのを抑えつつ、高千穂に問いかける。
「ああ、仄香、言うんだろ?」
目をこすっている仄香が、一度あくびをして、口を開く。
「あのね、泰明君、あたしね恋人ができたの」
正直面食らった。
いきなり、そんなことを言われてもどうすることもできないが、いきなりすぎて。
「そ、そうなんだ……」
当たり障りのないような返事を探しても、それしか出てこなかったのが駄目なところだと思った。
「でね、その相手なんだけどね」
高千穂がにぃっと笑って、二の句を告げる。
「改めて自己紹介をさせてもらおう。自分は高千穂和泉、仄香の大学での同級生だ。親友でもあり、よきライバルでもある。そして−−」
俺は、聞きたくない言葉を聞かずに済むような技術は会得していない。
そこまででわかった。
だから、もう。
これ以上

「仄香の彼女、させてもらってます」

まるで二人、示し合わせたかのようなブイサインを俺に向けて掲げる。
とてもいい笑顔だ。うん。
200点満点。俺が幼稚園の先生で、この二人が生徒なら、俺は花丸をあげてしまうところだ。







そして、奇妙な同居生活が始まりを告げた。




咲き誇る華のように 一話 帰ってきた幼なじみ 了



次回、咲き誇る華のように 二話 高千穂和泉と竜胆仄香の関係 へ 続












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