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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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それでも世界は生きているから 四塚と葵篇

そうだ、我はこの世界に生まれてきたのだ。

それでも世界は生きているから 四塚と葵篇



夕陽を背にして、それは俺たちの前に降りてきた。
すーっと、音も立てずに地面に着地する。
片膝をついた状態で、ゆっくりと立ち上がっていく。
背格好は人の成りをしているが、その身体から匂うのは獣の臭い。
身体中がまるで、木でできているかのようないでたちで、衣服は着ていないように見える。
頭には緑色の蔦が髪の毛のように何本も、何十本も、何百本も生えていた。
二本の腕、二本の足、身体。どれもが、人と変わらぬ。
人の身体と同じ場所に、同じパーツがついている。
目も、鼻も、口も、耳もある。
顔として整った形をしていた。
それは見るものを魅了するような何かをもっていて、俺は葵の手を強く握った。
「……君たちは、どこへ行くのか」
それが喋るということに驚きを隠せなかったが、俺は答えた。
「あ、ああ、えっと……」
言葉が出ない。
そいつの声がとても人のものとも獣のものとも思えないほどの無機質なものだったからだ。
その瞳は、俺と葵を物珍しいものでも見るかのように眺めている。
「川を、遡っているの」
怖がって口も挟まないかと思った葵が、それに向かって言った。
「どうしても、川を渡って向こう側に行きたくて……助けを待っている、誰かのために、行かなくちゃならないの」
その言葉に、そいつは首を傾げていた。
「……人は何故」
空を仰ぎ、そいつは続けた。
「お互いを傷つけあうのだ……? 我は、人は愛を語りあうと聞いたのだ」
それは、誰もが一度は考えることである。
その答えは人によって様々で、俺の中での答えは、人が人であるがゆえにということだ。
「なのに、知らぬ相手を助ける、と、言うのか」
疑念の眼差しを受ける葵をかばい、俺は言う。
「俺たちは、少なくとも俺たちは人を傷つけたりはしない側の人間だ」
そうでありたい。
そうだと自分に言い聞かせたい。
ただそれだけなのに、それは単なるエゴだというのに。
そう言わなければいけない気がしたのは、何故だろうか。
「そうか、そう、なのか」
何かを考えるような仕草をとって、そいつは深々と頭を下げた。
かと思うとそいつは身を翻し、しゃがんだかと思うと高く高く空へと舞い上がった。
ずっと、ずっと高いところまで行って、見えなくなって。
気がついたらそいつは、また目の前にいた。
「川の上流に、通れる道がある」
驚く暇もなく、俺たちは呆然とする。
どこか、やさしい声色だった。



そいつの言った通りだった。
川の上流には車が通れるほどの、誰かがつくったと思われる橋があった。
上流を見ると、まだこの川は続いているようだった。
「あ、四塚、あれ」
葵が指差したのは川の中だった。
「……なんだ、あれ」
その方向にいたのは、真っ黒な塊。
オオサンショウウオだ。
「こんなところで見れるんだね」
そう言われると、確かにそうだ。
場所的に考えても、このあたりはまだ人家のある場所で、そんなに山の中というわけでも清流でもない。
珍しいこともあるのだなと、ずっと眺めていたくなった。
ふと、その存在を明らかにできない、そいつが言った。
「あれは、この世界に残る、尊き古き命。其れを、誰も害す事は出来ない」
そいつはまた空を見上げていた。
俺も葵もつられて空を見上げる。
夕陽が沈みつつあるのを、じっと見つめた。

「それじゃ、ここで」
翌朝。
俺たちとそいつは、川を境に別れることになった。
そいつを背に車を走らせていく。
日が沈んだ後、そいつと少しだけ話をした。
今のこの世界の状況、他の世界のこと、そして、そいつのことを。
世界は今、国として機能しないところが山ほどあるらしい。
それもそのはず、各国首脳は我先にと移住計画に飛びついてこの星からいなくなってしまったからだと言う。
本来ならば、国を守らなければいけないはずなのに、国のトップともあろう者達がそういう具合だと、彼も混乱するのだと言っていた。人は何故、と彼が言ったのを俺は思い出した。
他の世界には、世界崩壊の影響は出ていないらしい。
ただ本当に、この俺たちの住む世界だけが崩壊してしまったのだという。
確かに巨大隕石オルフェウスは、この星に衝突したらしい。
だが、それを食い止めようとした人物たちがいると彼は教えてくれた。
俺の脳裏に、園山の個展で出会った男の姿が思い浮かんだが、すぐにそれは記憶の彼方へと葬り去られた。
そいつらは世界を再興させようと奮闘していて、直に世界は元の世界に戻るだろうということだ。
そして、彼のこと。
彼は世界崩壊の朝に、屋久島の縄文杉のもとに産まれたらしい。
人ではない、妖でもない、精霊の一種だと言えばいいのだろうか。
木霊のようなものだと解釈すればいいのだろうか。
とにかく、彼は何でもできるのだと言った。
空を飛ぼうと思えば飛べるし、泳ごうと思えば自然と身体が水に順応する。
走ることとあらばそれこそチーターをも追い抜くというし、気配を消すこともできれば、飲まず食わずで生きていくこともできると。
獣との対話もできて、人の言葉も解す。
さすがに何を言われても驚かないつもりではいたが、これは正直驚かざるを得なかった。
これは神話でも何でもない、現実で起こっていることだというのに、俺は信じられない気持ちでいっぱいだった。
一緒に話を聞いていた葵も、驚きつつも、彼の話を黙って聞いていた。



彼はきっと、この後も世界を周りつづけるのだろう。
俺はバックミラーを覗いて、まだこちらを見ているその姿を確認した。
「不思議な、感じだったね」
葵がうきうきとした様子で言う。
「ああ、そうだな。何だか狐に抓まれたみたいだけど」
俺は言葉を返して、車を走らせる。
そう、その不思議な出会いを経て。
俺たちはある場所へとたどり着いた。









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