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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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二次創作異端寓話『atom』1st.

「本当だ!僕、見たんだ!」
誰一人信じちゃくれなかった。
「空を飛んでいたんだ!きっと何かあったんだよ!」
僕の目に映るその姿は、正しく。
「本当なんだ、信じてよ…」
僕は、あの日。
「見間違いなんかじゃない、あれは、本物の――」

僕はあの時、アトムを見た。

別段暑いわけでも寒いわけでもない日だった。その日、僕は一人、厳島霊園の両親の墓前にたっていた。
両親が事故で他界して、もう十年になる。歳月というものは流れるのが早い。
両親はロボット工学の発達における時代の急成長に伴い、その技術を得て、後に残るあるものをつくりあげた。
それはオメガエンジンと呼ばれた。

両親が他界した原因、形式上は実験課程での不慮の事故ということになっている。
それもどこまで信じていいのかわからない話だ。二人が所属していたのは、天馬機関と呼ばれる組織だ。
彼の天馬博士がその道のエキスパート、もとい、マッドサイエンティストを世界中から呼び集めた研究機関――それが天馬機関だ。
ロボット工学に始まって、先端技術、量子論、果ては環境、心理学に至るまで、あらゆる領域の権威がこの天馬機関に所属していた。
僕の両親は、先述のとおりロボット工学に通ずる技術者で互いに信頼をおいていたかと思えば、毎日のように口論を交わすような夫婦だった。
そのくせ、子どもである僕には滅法優しかった。

あの日、僕が両親と最後に交わした言葉は、辛辣なものだった。

「今日は遊びに連れていってくれるって約束したじゃないか…!」
ある春の日のことだった。ずっと仕事仕事で、滅多に遊びに連れていってもらうことのできなかった僕に、我慢の限界が訪れていた。
「すまない、急な仕事で…」
「ごめんなさい、私たちが行かないと研究が進まないの」
どこか控え目に言いつつも、両親は引くことがなかった。
「知らない…二人とも勝手だ!」
両親が辛そうな顔をしていたのはわかっていた。
でも、まだ小さな僕には、それを許すだけの余裕なんてなかった。
「二人とも、僕のこと、いらないんだろ…仕事だけあればいいんだろ!」
乾いた音が部屋に響いた。左の頬がヒリヒリする。
「そんなこと…ないわよ…」
顔をあげると、母さんが涙を瞳にためて僕を見つめていた。
「二人とも、いなくなっちゃえばいいんだ…!」
そう叫び、たまらなくなって僕は家を出た。両親の顔が歪んだのを見た気がした。

走って走って、走りつづけた。
息もあがって身体もバテたころ、自分が泣いていることに気づいた。
一番近くにあるベンチに座って、呼吸を整えた。陽は天高く、煌々と輝いていた。

一日中、そこのベンチに座っていた。
気がつけば夕方は過ぎて、夜の闇が辺りを包むころだった。

重い足を引きずって家へと向かう。どうせ帰ったって誰もいないことはわかっている。
人気のない真っ暗な道を歩いていると、赤い光がくるくると、回って近づいてくるのが見えた。
ぼーっとその光を見ていた。ああ、綺麗だな、暗闇にその赤い光は映えた。
光は僕の前で止まった。
「園山幸四郎教授、ならびに園山柚歌教授の御子息、園山修二君だね」
中から人が出てきて、僕の名前を呼んだ。
「天馬機関で、君のご両親が研究中に事故が起きた。巻き込まれた可能性がある、ご同行願いたい。」
事故。
両親。
二人は無事だろうか。
不吉な予感がした。

天馬機関は、この街の中心に位置するビル街の、中心にある第七号棟ビルの中にあった。
テロ犯罪の絶えない時勢だったこともあり、外側からの防御は完璧に近い。
ただ、内部で事故が起こると、その頑丈さ故に発見自体が遅れることがある。
両親は、その天馬機関で研究をしていた。
オメガエンジンを完成させた両親が、今している研究は、強きを挫き弱きを助ける、言うなれば人型ロボット――コードネーム「アトム」だった。
その「アトム」に組み込むための回路の実験をしていたのだ。
「アトム」ができれば、人々の暮らしのために貢献できる。
「アトム」ができた暁には、日本の技術力は大幅に進歩する。
「アトム」が――両親が何度もそう言っていたのを覚えている。
その「アトム」の研究が最終段階に入ったということで、両親はせっかくの休日を潰した。
オメガエンジンがどういった働きをするのか、僕が知ることは何一つなかった。

天馬機関のビルは炎上、逃げ遅れたのが全体の四割で、死者は700名に及んだのを知ったのは翌朝のことだった。ビル周辺では交通規制によってできた渋滞で、道はごった返していた。
夜の闇にその炎はよく映えた。まるで、闇夜を羽ばたく火の鳥のように。
いや、それは正しく真の火の鳥だったのかもしれない。

炎が収まるまで、三日三晩を要した。家とビルを何度も往復したのを覚えている。焼け跡から運びだされるのは人の形をした物体ばかり。それは見るに堪えないものばかりで、気分を悪くする野次馬も大勢いたそうだ。
僕はと言うと、特にそれといった感想などはなかった。そこで既に気が気でなかったのかもしれないが、とにかく、僕は何も感じなかった。
両親の遺体と対面できたのは、更にその翌日。両親共々、真っ黒に炭化していた。周りの大人たちは苦い顔をしていたが僕は何とも思うことはなかった。
両親は互いに親類と疎遠で、僕にはいわゆる親戚というものがいなかった。
そんな僕の両親の葬儀を執り行ってくれたのは、母の親友であった森久雪衣その人だった。

この国に所属する技術者のうち、約半数を占める45%が天馬機関に所属していた。今回の火災で更にその半数、20%にあたる人間が死んだ。
国にとっての大打撃となるこの大参事を、十歳だった僕は理解しきれなかった。
いや、理解できなかったとでも言えばいいだろうか。
僕が後から知ることになったこと――ことの真相。時として真実は残酷だと、僕は知った。
全てが始まり、そしてそれは終わりへと向かって歩を進める。
思い出に浸るのはやめだ。
僕は真実を知って、また一つ成長をする。



「修二!早くしないと遅れるよ!」
背後からの声に振り返る。黒いドレスの女性が僕を呼んでいた。
「ああ、今行くよ」
もう一度両親の墓前で手を合わせ、拝む。涼しげな風がざあっと吹いて、僕の視線を空へと流す。ああ、今日はいい雲が流れている。
「修二!」
二度目の呼びかけに、そろそろと足を向けて歩きだす。
彼女のかぶっているレースのついた大きな帽子がとてもかわいらしく思えた。
「もー、遅れたら修二のせいだからね」
ツンとした態度の彼女は、森久十和。森久氏の娘だ。
僕が森久氏に引き取られるより以前に、何度か顔を突き合わせてはいた。二、三言会話をした記憶はあるが、面と向かってきちんと会話をしたのは僕が森久氏に引き取られてからだ。
しかし、一緒に生活をすることになった最初のころは、お互いにあまり話をすることはなかった。
森久氏も僕の両親と同じく国のエキスパートであったがために、家にいることは少なかった。十和の父親は政府の関係者で、彼もまたあまり家にはいなかった。
彼女の両親は、僕にも優しくしてくれた。まるで僕を本当の家族のように大事にしてくれた。また、それが寂しく感じることがなかったとは言いきれない。

今はもう別々の部屋だが、当時は十和と同じ部屋で過ごしていた。元々、十和の部屋は広すぎるぐらいの部屋だったので、初めて彼女の部屋に入った時は「どこまでこいつはお嬢様なんだ」と対抗意識を燃やしたりもした。
一緒に生活するようになって一ヶ月、僕は大分この家に馴染むことができた。唯一問題点があるとすれば、十和との会話が挨拶以外にないことだった。
会話ぐらいしなくても共存はできるだろうと思っていた節もあったが、そんなはずもなかった。
偶然、十和の両親が仕事で、一日だけ家を空けることになった。
家には僕と十和の二人だけになった。

夕飯も終えて、風呂にも無事入ることができた。後は寝る以外の選択肢がない。
僕はすることもなく、さほど眠たくはなかったが早々にベッドに入ることにした。
十和と同じ部屋で、ベッドは別々。彼女は僕が眠りにおちるまで勉強をしていたみたいだった。

夢を見た。両親と出かける夢を。あの日、僕が両親と行く予定だった場所。楽しそうに、僕は笑う。両親も、微笑みを絶やさない。

それは簡単に崩れる。
夢は目覚めれば消えるのだ。
夢を見た対象者を要に、様々な要因を引き起こして。
いつも、目覚める時は寝汗で体中びっしょりとぬれている。酷い夢だと、僕は思う。僕の中で両親の出てくる夢は酷い夢だと認識されているようだ。
やはりこの状況こそが、僕を拘束しているのだろうか。有り得ないはずのことが起きるからこそ、それは夢でありその夢を酷いと認識することによって僕は、何度も繰り返し同じ夢を見る。悪夢と称すのに相応しい、そう思う。連日見るこの悪夢から逃れる方法はないのだろうか。
体中に、べたつく汗を拭うために、僕は日課とも言わぬばかりにパジャマの上を脱ぐ。十和を起こさないようにして部屋をそっと抜けて、洗面所にタオルを取りに行く。慣れたもので、大体の位置は電気をつけなくともわかるようになった。
「あれ…おかしいな」
いつもの場所にタオルがない。仕方なく電気をつける。いきなりの光の点灯に一瞬だけ目が眩む。しかしそれもわずかのことで、すぐに目は慣れた。
洗面台の鏡に映る、汗をびっしょりかいた僕。実は、よく眠れているはずなのに目の下にうっすらとクマがある。何だ、やっぱり寝不足なんじゃないか。

部屋に戻ってベッドに入る。当分は眠れそうにないが朝まではまだたっぷりと時間があるので大丈夫だろう。
目をつむって意識を落ち着ける。耳に入ってくる風の音が心地よくも恐ろしく感じた。衣擦れの音と共に、違和感のある音が聞こえた。
まさか、とは思うが一応確認してみようか。
「…」
何も言わずに、十和のかぶっている布団をはぎ取る。
ベッドの上で丸まって、泣いている十和の姿があった。
「…泣いてるの?」
ゆっくりと、彼女は体を起こす。
「…ぐす…だ、って…」
顔中涙でぐちゃぐちゃで、髪もまだ乾ききっていなくて。
「何で、泣いてるの?」
気になって、聞くことにした。
「…パパも、ママもお仕事で…ひっく…」
「うん、いない、ね」
何故だか穏やかな気持ちで、僕は彼女のベッドに腰かけた。
「いつもはへいきなのに…怖い夢…みて…」
怖い夢。悪夢だろうか。
内容は聞かないまでにしても、僕と同じだったのか。
「…一緒だ」
「いっ…しょ…?」
まだぐずっている彼女に僕は言った。
「僕も、怖い夢をみたよ」
おかげで体中、汗でベトベトだったよ、まるで真夏の毛布みたいだよなと。
彼女の前でおどけてみせた。
「…」
あれ、ここは笑うとこ…だよな。
「…そっか…」
軽く流されて、少し戸惑う。
「一緒、なんだね…」
彼女は泣き止み、何を思ったか僕を抱きしめた。
「え…なに…?」
何が何やらよくわからなかった。
「…一緒、だもの。あたしと…」
そう、か。そうなのだ。
僕は寂しかったんだ。
「は…はは、ははは」
渇いた笑い声が、口から漏れて、次いで涙が頬を伝った。
彼女は僕の顔を見て、もう一度抱きしめた。
「はは…ふぁ…ひっ…」
涙が止まらなくて。どうしようもなく寂しくて。
抱きしめてくれている彼女のぬくもりが暖かくて。
寂しかったことに気づかされて。
僕は泣いた。
朝が来るまで泣いた。
全てを吐き出すかのように。
自分の気持ちを、洗いざらい彼女に伝えた。
僕の奥底に眠る全てを、僕はそこで一度全て吐き出した。

彼女もまた、同じように全てを吐き出して。
また泣いて、慰めあって。

僕と彼女、園山修二と森久十和は、お互いの存在を確認しあい、仲を深めることになった。

それから、泣きつかれた僕達は、一枚の手紙を書いた。誰も起こさないようにと、一言だけの手紙。
リビングの机の上に置いておいた。十和の両親のどちらかが帰宅すれば見るはずだ。朝日が上っていた。
僕達は一緒のベッドで寄り添うようにして眠った。
互いの手を握りながら、離さぬように、離れぬように、と。

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『atom』について

二次創作異端寓話『atom』1st.は、かの有名な鉄腕アトムの二次創作ストーリーです。
15の時に、アトムと俺の誕生日が同じだと知って、21になった先日、ふと思いついたネタをこういう形で使わせてもらうことにしました。
アトムは強くて優しくて。
世界を揺るがせたロボットで。
そんなアトムは、この話には後半を過ぎてからでないと出てきません。
とりあえずメールのキャパがなくなったので1stは載せることにしました。
…感想とか、別にほしくなんかないをだからねっ!!
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