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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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轟竜 ティガレックス 1

 
 いつになく、晴れた日だった。そのドアから一歩飛び出せば、世界の果てへも行けるような雲ひとつ無い空。太陽は高く上り、地上を照らしていた。
部屋の片隅、そこに置かれている紅色の甲冑。砂漠に潜む盾蟹の甲殻から作ったものだ。見た目ほどの重さはないが、やはりそれなりの重さで、それなりの強度を誇る。
机の上には、いくつかの薬と種。肉に砥石。忘れちゃならないのが、ホットドリンク。昨日のことだった。いつものようにクエストを終えて村に戻ってくると、大慌てで出迎えた村長に聞かされた。
 
『雪山に、主が帰ってきおった。お主がこの村に来た日に出会った、あの竜…轟竜ティガレックスじゃ』
 
雪山の、主。轟竜。古来より、この地に存在するという、凶暴な竜。まさか。しかし、その情報が明らかであることは、誰ともなく物語っていた。
 
そして、明くる今日という日に。私は雪山に出かける準備をしはじめていた。丹念に鎧を磨き、壁にかけてあった大剣を手に取る。神話の中で語り継がれる戦乙女の名を冠したこの大剣は幾度となく私の身を守り、その度に何度もピンチを抜け出すことができた。流石に手に入れるのには苦労をしたが。
あの日、私がこの村に来ることになって、雪山を越えようとした時だった。
 眼前に現る巨体。地を這うその身体、発達した顎に、まるで蝙蝠のように広がる翼。
 それは、この地域一帯に生息するポポという草食動物を喰らっていた。
 
轟竜、ティガレックス。
 
まずい、だろう。
 移動するだけの最低限の装備しかしていない私にとって、これは予想外の出来事であったのだ。しかし、逃げだすわけにもいかない。私は、この雪山の向こうにある村に、呼ばれたのだ。行かなければならないのである。
 心細い装備ではあるが、ないよりはマシである。それは、振り向くなり私を視界に捉える。途端に咆哮をあげて、突進してきたのだった。
 
 …まあ、その後のことは、言わずもがなわかるであろう。山の中腹で気絶していたのを、たまたま村人に発見されて事なきを得たのである。あれから、2ヶ月が経っている。この日を、待ちわびていた。しかし同時に、覚悟をしていたのだ。
 今までに、何度も死にかけたのだ。轟竜だけでなく、他にも色々なモンスターを相手にしてきた。砂漠の盾蟹、密林の雌火竜、沼地に潜む毒怪鳥に、以前の雪山の主である雪獅子。そして、今回雪山の新たな主、轟竜である。
 私がこの村に来てからは、以前よりは平和になったそうだ。
 しかしその裏、私は毎回本当に死にそうな目にあっている。十分な数を持っていったはずの回復薬を切らしてしまったり、密林の崖から落ちそうになったり。砂漠で盾蟹に地中から上空へと突き上げられた時は、本当に死ぬと思ったものだ。今のところ、それが一番恐ろしい体験だったのだが。
 さて、そろそろ行かねば。この村が晴れていたとしても、あの雪山は頂上にいくに連れて吹雪いていくのだ。ぼやぼやしている場合ではない。机の上に出してあったものを荷物入れに詰める。忘れ物がないかのチェックも抜かりなし。大剣の手入れも万全である。
 鎧を手際よく一つずつつけていく。固定具をきちんとつけないと、戦闘中に外れたり、位置がずれたりするので、この辺は慎重に的確にやらねばならない。
 大方準備が整ったころ、誰かが尋ねてきた。
「はい、あいてますよ」
 ちょうど、ヘルムをつけようとした時だった。ガチャっと、ドアが開く。
「今から行くのかい」
 訓練所の教官だった。
「ええ、丁度出ようかなって思ってたところなんです」
 何時に無く真剣そうな面持ちの教官だったが、微笑みながら言った言葉が効いたらしく、ふと笑って息をついた。
「まあ、君のことだ。無事に帰ってくるんだろうな」
 この村に来た時みたいにね、と教官は言う。そう、あの時看病をしてくれたのは他ならぬ教官なのだ。
「あの時は、本当にありがとうございました」
 この話が出る度に、私は教官に礼を言っている。建前でもなんでもなく、ただ、本心から。
「はは、そう畏まらなくともいい。ここは君の家であって、訓練所ではないのだから」
 そう言って教官は、懐から何かを取り出した。
「何ですか、これは?」
「ああ、これは鬼人薬と言ってね…飲めば鬼人の如き力を得ることからそう呼ばれる薬だ。それと、こっちは秘薬だ。体力の限界が近くなった時に使うといい」
「はあ…いいのですか?私がもらっても」
そう言うと、教官は一瞬ギョッとした目をしたが、すぐにいつもの表情になって言った。
「君は、本当にいつもいつも…いいか?君は今からあの忌々しい轟竜を退治しに行くのだぞ」
凄まれて言われて、言葉を返せない。
「本来ならば、君一人で行かせるわけにもいかんのだが、今回ばかりは仕方がないのだ…よって、これは餞別として持っていけと言っているのだ」
「は、はい…」
コホンと咳払いをして、教官は口を開いた。
「いいか!これは訓練ではない!討伐なのだ!村の平和を守るために君に課せられた使命であるのだ!」
いきなりの大声で、しかも外に聴こえるぐらいの大声で。
「よって、教官としてここに、今君を送り出す!」
真剣な表情。いつもと変わることのない教官。私もいつの間にか、教官の正面に立っていた。
「行ってこい!」
「は!シェリル=クロウヴァッサ、行って参ります!」
高まる士気、荒ぶる鼓動にあがる体温。荷物入れを持ち、戦乙女、ヴァルキリーブレイドを背負う。ドアから飛び出し、村の中を走り抜ける。目があう人々皆が、声をかけてくれる。
「シェリル、農場のことは任せて」
「おう、嬢ちゃん、無事に帰ってきたら寄ってくれよ!」
ポッケポイントの交換のお兄さんに、武器防具屋のおじさん。
「シェリルちゃん、これ持ってって!」
道具屋のおばさんは、何かが詰まった袋を投げて寄越した。
「ありがとう!」
そのまま坂を下っていく。
「気ぃつけるんじゃぞー」
背中に、村長の声を受けて、私は走る。
 
いつになく、晴れた日だった。そのドアから一歩飛び出せば、世界の果てへも行けるような雲ひとつ無い空。太陽は高く上り、地上を照らしていた。
 
私は、辿り着いた。
轟竜の待つ、高々とそびえるその、雪山の麓に。
 
続く。
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