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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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それでも世界は生きているから それから 2

「二度と会うことなんかないと、思っていたんだけどね」
マリィは一人の少年と対峙していた。
「僕もだよ。本当に運が悪い」
旅路の果てにハイネの世界に戻ろうとした矢先のことだった。駅へ向かう途中、人通りの少ない道を二人が歩いていた時だ。
「やはり探していた甲斐があった。希望を捨てなくてよかったと、今なら神に感謝できるよ」
少年はマリィを睨み付ける。その表情には怒りと悲しみが混ざりあっていた。
「いいかい、マリッカ。君は自分のしたことを償うべきだ。お父上も嘆いていたよ、まさか自分の娘が親友の娘に手をかけるなんて、ってね」
それを聞いたマリィの表情は曇る。
「ああ……それは悪いことをしたと」
「黙れ!!」
マリィの言葉を切って少年が叫ぶ。
「たかだかそんな、悪いことをした、だけで済むと思っているのか貴様は!?」
激昂する少年に、マリィは少しだけ驚く。
「許されるなら、今すぐにでもお前を殺してやりたいところだ……!」
まるで。
苦渋を噛みしめるように少年は猛る。
マリィはそれを見ながら思った。
ハイネを先に行かせてよかったのだと。
「こわ……いつの間にそんなキャラになったんだい君は……」
確かに、マリィのしたことは許されることではない。それはマリィ本人も理解しているつもりであった。
「貴様に言われる筋合いなど、ない」
少年は背負っていたリュックサックをおろし、その中から一枚の紙を取り出した。
彼はそれをマリィに突きつけて言った。
「シゼン皇国国際警察法、第215条二項、殺人と快楽に対する厳正なる処罰により、マリッカ・スクラヴァを逮捕する」
彼の胸元に輝いていたのは、狼を象った銀色のバッヂだった。
口元に剣を銜えたそれは、まるで神話に出てくるような月光を追う狼のようにも見えた。
「へえ……いつの間にそんな仕事についたんだい君。ますますもって、僕は逃げなきゃならないみたいだね」
その様子を見ても動じることのないマリィは、表には出さないものの内心焦っていた。
最後に彼を見たのは、カムパネルラを殺した日の少し前。
そういえば国のために働くとか言っていたような記憶もあるなあとマリィは思い出す。
カムパネルラを殺して追われる身となって、荒れる海に飛び込んだ日。目を覚ましてハイネのいた世界にいて、あちらの世界が崩壊した。僕がこの世界に戻ってきた時には、半年が過ぎていて。あちらの世界に戻ってハイネに再会して、それから旅を続けて。一年とちょっとが経って、今日。
都合、あれから二年近くの時が経っていたことになる。
そりゃあ彼も国家の犬になる時間ぐらいはあったってことになる。
「おとなしく、身柄を拘束されろ。さもなくば、この手で」
手に持った紙を懐に仕舞いこみ、ギリという歯軋りを残して彼は構える。
「それは、ごめんだね」
言ってマリィは彼に向かって駆け出した。
それを受けるべく、少年は構えを変えた。
しかし。
「戦わないけどね」
マリィは彼に向かっていった。
しかしそれは、彼とやりあう為ではない。
逃げる為の行動だった。
彼とすれ違いざまにマリィはつぶやいた。
「捕まえてみなよ」
呆然とそこに立ったままの少年は、その言葉に驚きを隠せない。
いくら人を殺したとはいえ、相手は少女だ。
男である自分が、なめられているとでも言うのだろうか。
数秒のうちに考え、そして少年は振り向いた。
だが、その相手との距離の差に愕然とする。
たった今横を通り過ぎていったと思ったのに。
目算でざっと、30mほど。
「……コケにしてくれてるのか、君は」
少年は一人つぶやいて、走る少女を追いかけた。



とぼとぼと、街頭のつきだした街を一人であるく少女がいた。
今日はどうやらお祭りのようで、道の両側に多くの出店が出ている。
人々でごったがえしている道は賑わっていて、その中を歩くのが少し苦しくて、楽しいと感じた。
この世界には一度来たっきりで、まだ知らないことばかり。
四塚さんたちのところから離れて、二年ぐらいの時間が経った。
色々な世界を旅する生活に、そろそろ慣れてきたような気もしている。
気もしているだけかもしれない。
今、この場所にいる私だけが、そういう気になっているだけなのかもしれない。
他に誰がいるというわけでもないのに。人がいないわけでもないのに。
道行く人々は、出店を見たり、買い物をしたり。
私はこの道を、知らない。
一人で歩くのが心細い。
私のだんな様は一体どこに行ってしまったのだろうか。
ほどなくして、以前この世界に来たときに待ち合わせに使った時計台を見つけた。
ここで待っていろ、って、言って、どこに行ってしまったのだろう。

ふとしたことで、出会いをないがしろにしてしまうこともあるだろう。
私がそうであったとは、言わないけれど。でも、それでもそうでなかったとも言い切れない。
リリの血と肉は、私の中で生きているのだ。
私の中で血肉となり、私と共にある。
今思えば、何故あそこまで兄様に固執していたのだろうか。
憧れであり、たった一人の理解者であった兄様を、本当に私は愛していたのか。
そう考えることが、最近はよくある。
まるで今の私の気持ちと反比例するかのように。
もうずっと私の気持ちは、だんな様である彼女に向けられたまま。
口には出さないけれど、彼女は私だけを見てくれている。
彼女の中にある今までのことが、私と同じ道を辿っていることだって知っている。
彼女は、私と出会って、それまでのことを全てなかったかのように。
そういう接し方で接してきた。
でもそれは、彼女は彼女で決着をつけたということなのだろう。
それまでの彼女の気持ちに。
私はどうだろうか。
それまでの私自身の気持ちに、決着がついているのだろうか。
それについて、首を傾げてしまうことは、多々ある。
誰も知らないこと、ではないけれど。
純粋に彼女を想うが故に。



しつこいほどに、彼にまだ追われつづけている。
体感時間にして、まだ15分程度だろう。
そろそろ息が切れてもいいころだというのに、相手は一向に息を切らす気配がない。
「くっ……あいつ、いったい、いつのまにあんなに体力つけたんだ、よ……ッ」
走りながら言葉にするが、それは余計に自分を苦しめる結果となる。
ただでさえ人ごみの中を、人の合間をぬうように移動しているのに、それを更に体力を消耗する道のりを行くしかない。つかまるわけにはいかないからだ。
自分の大事な人を待たせている。
これは今夜、覚悟しておかないとまずいなと思いながら、少女は人ごみを行く。
道を空けてくれる人ばかりがいるわけではないから、どこかで撒くしかない。
そうでもしなければ、諦めてくれそうにはない。
人ごみをやっと抜けたところで、背後を振り返る。
気配はするけれど、人ごみの中にいるようには見えない。
ならば、今なら。
大事な人のところに向かおう、そう思った時だった。
「逃げられると思ったのかい」
声のした方向は、上空。
急いで顔をあげる。
「まったく、一体どうなっているんだ今日は……」
心なしか疲れた顔をしている彼を見上げていた。
時計台の上に立つ彼は夕日を浴びていた。
「やっと、見つけたと思えば、逃げ出すなんて……謝る気は、ないんだな」
マリィを見下ろす彼の表情は、書簡で聞くところの、鬼そのものであった。
「……謝る? 僕が、謝るだって?」
彼は一体、何を謝れというのか。
僕の聞き違いならいいのだけれど。
「それは、カムパ」
「あっ、マリィ……」
彼の言葉は、不思議と響く声にかき消されてしまった。
二人がその声の主を探すと、たった一人、長い黒髪の少女がぽつんと立っていた。
「ハイネ、待っててって言ったじゃないか」
ハイネに駆け寄るマリィを、彼はじっと眺めていた。
「まって、た……で、もマリィが、いつま、でたっても、来なくて、だから」
瞳の端にたまる涙を押しこらえて、ハイネは続ける。
「さみし、くて……さがしにい、こう、っておも、って……そしたら」
「ああもう、泣かないで、ね、いいから」
とうとう泣き出したハイネを慰めながら、マリィは歩き出す。
「……どこへ行く気だ、話はまだ終わっていない」
びくっと肩が震えて、マリィはゆっくりと彼の方へと振り向いた。
「今日はちょっと、この後予定が……」
「そういう話をしているんじゃない!」
時計台から飛び降りた彼は二人の前に立ちはだかった。
「逃がす訳にはいかないんだ、カムパネルラのためにも」
ただ聞いているだけだったその台詞を。
自分ひとりだったなら、スルーしていただろうその言葉を。
マリィは聞き逃さなかった。
「いい加減に、してくれないか」
少年はそれまでのマリィの雰囲気の違いに、頭を悩ませる。
「君に何がわかるっていうんだ。あの子の、カムパネルラの何が」
胸倉をつかまれて、一瞬息が止まったかと勘違いするぐらいの勢いに流される。
「アラカンサス。僕にできて、君にできなかったことがひとつあるよ」
マリィは少年の瞳を見据え、射抜かれたかのごとく少年の瞳は、マリィの瞳を見返すしかなかった。
「なんだって、いうんだ」
考えあぐねた結果、口から出たのはその言葉だった。
「それはね」
ハイネをきちんと立たせて、その手を握る。
俯いていた顔が正面を向いて、ハイネとマリィが並んだ。目の前にいる少年を二人が凝視する。
マリィはそれをゆっくりと口にした。
「それは、彼女に愛されなかったってことだ」
少年の中で何かが弾けて、消えていった。



「ね、マリィ、どうし、たの」
ベッドの上で、ずっと自分を抱きしめる彼女にハイネは問う。
窓の外に見える明かりは、まだ街が休んでいないことを示している。
今夜から一週間、街は明かりを絶やさずに進み続ける。
毎日がお祭りということらしいけれど、嫌いではない。どちらかと言えば好きなほうだ。
まだマリィは何も言わずにいる。困ったものだなとは思うけれど、抱きしめられているのは好きだから、気分は悪くない。
てっとりばやく、彼女を押し倒して聞き出すという方法もあるけれど、きっとそれは今してはいけないこと。
彼女は、何かと対峙しているのだろう。あの時一緒にいた人のことは、私は何も知らない。あの後、その人はそこに立ったままだった。私はマリィに連れられて、この部屋につれてこられた。
「マリィ、ね、お酒の、もう?」
気だるそうな顔をしたマリィが、私を見る。
そんな気分じゃないという表情だけれど、私はそれを見ないフリをした。
マリィを引き剥がして、部屋に用意されていたワインと、グラスを二つベッドの上に転がした。
ベッドにうずくまって起きないマリィを引き起こして、ベッドの淵に座らせる。
グラスを並べてとくとくとワインを注ぐ。
ただそれを眺めているだけで、言葉を口にしようとしないマリィに一言だけ告げる。
「はい、のん、で」
グラスを受け取りはするが、彼女は何もしようとしない。
ただグラスの中の液体に映る自分を見ているだけの少女。
彼女は何を思っているのだろう。時々、私にはそれがわからなくなる。
何も言わないことを、たまにするのだ。性格上の問題ではあるのだろうけれど。
私はそれをいけないことだとは思わない。彼女の中で蠢いているものがどういう形で私に触れてくるのかが楽しみであるから。
五分経っても、十分経ってもマリィはぼーっとしたままだ。グラスに口をつけようともしない。
私は彼女がそれを飲み干すまで待とうと思ったけれど、あまり長くは我慢できそうにもなかった。
「ね、それか、して」
半ば無理やりグラスを奪って、中身を口に含む。
その様子を見あげる彼女の顎を引き寄せて、私は口付ける。
「ん……!」
小さく声をもらす彼女のことなど気にしていられない。無理やりにでものませてしまおうという魂胆で、私は口移しを実行した。
時折漏れる声と、口元からだらしなくこぼれていくワイン。
半分以上は床にこぼれてしまったようだけれど、少しぐらいは彼女の口に入っていっただろう。
「ハイネ……」
ひざをついている彼女を見下ろして私は言う。
「夜は、まだは、じまった、ばかり、なの」
なんて愛らしいのだろう、彼女は。
私を見上げるその姿が、とても愛おしくてたまらないのだ。
「これ、から、もっと、ね、お話しを、しま、しょう?」
だって。
「ひとりじゃ、ないのよ」
何か言いたげな彼女をおいて、私はつづけていく。
「一緒にい、るのが、あなた、だから、私は、嬉し、い、の」
にっこりと、笑って言葉を紡いだ。

「あなたと、一緒に、幸せにな、りたい、の」









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