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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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続々 少女と、

「帰るおうちがわからないの?」
足元で悲しそうな顔をした小さな犬が私を見上げていたのは、雨の降る日の夕方だった。びしょびしょに濡れた体を震わせていたその子を連れて帰ったのは情が移ったからだろう。本当にそうであったかどうかは別として、私には新しい家族がほしいという願いがあった。
お父さんは、家にいても外にいても動物の話は全くしない。きっと、動物が嫌いなんだと思う。連れて帰ったら
「ただい、ま」
恐る恐る玄関を開けて家に入る。雨に濡れて震える子犬を抱えているなんて、まるでマンガみたいな話だった。
「あら、おかえり……」
キッチンからお母さんが出てきて、私と腕の中の子犬を交互に眺める。
「しーちゃん、お父さんならもう帰ってきてるから、着替えだけしてきなさい」
その一瞬で理解してくれたのか、お母さんは子犬を抱き上げてくれた。
「……うん」
私はお母さんの腕の中でまだ震えている子犬を後目に部屋に向かう。上着を脱いで、イスにかけてあったパーカーを羽織った。しかしあまり待たせるのも得策ではないと判断して、部屋を出る。
急いでリビングに向かう。ドアを開けた先には誰もいない。キッチンにいるお母さんが見えるだけだった。
「あれ……お母さん、お父さんは?」
「ちょうど今お風呂行ったわよ」
「なん、だと……?」
等とマンガのセリフを真似ている暇はなかった。
私はきびすをかえして風呂場に足を向ける。
シャワーの音が聞こえていた。だが、お父さんがシャワーを浴びるよりも大事なことが私にはある。
問答無用で風呂場のドアを開ける。
「お父さん!お願いが、あり……ま…………」
その光景は私には信じられなかった。
あまりにも、ショッキングすぎる映像が私を。



「あれ、しづは知らなかったっけ」
夕食の後、いつの間にか帰ってきていた兄と一緒に、私はソファに座りテレビを眺めていた。
「知らないも何もないよ……」
はあ、とため息をつく。
何だか逆に疲れてしまった。気負いをすることもなかったのだと理解した上でのことだ。
「昔っから動物には目がないんだよ、父さんは。テレビでも動物番組見ないのは、ペットがほしくなるからだとさ」
「……信じられない」
そう、未だに信じられないのだ。
風呂場のドアを開けて、私が見たのは、私が連れて帰ってきた子犬の体を洗うお父さんの姿だった。
「嫌いなんだと思ってたのに……」
独白のつもりだったが、兄がそれに返答をした。
「嫌いなら、あんなんならないわな」
目線の先には、体の乾いた子犬と戯れるお父さんの姿があった。
「いや、そうだけどさ……」
私は何もする気力がなくなりかけていた。
「ま、飼えるから大丈夫だろ」
兄の手のひらは、私の頭を優しく撫でた。
視線の先には例の子犬と戯れるお父さんの姿があったのだった。












少女と、





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