「革命を起こすのです。この世界を変えるために今こそ革命を起こすのです!」
暗闇に高らかに響く声が木霊する。
「さあ、革命を起こせ!」
その声でいたるところの灯りがついた。
「革命を!」「革命!革命!」「偉大なる我らが教祖様に!」「おお!」
灯りがついたと言っても室内のそれではなかった。まだ薄暗い、小学校の体育館ぐらいの規模の大きさの洞穴での出来事だった。
群集がざわめいている。終わらない歌を歌うかのように、彼らはそこで祝詞をあげている。
「さあ!贄を差し出したまえ!」
一際高い場所に立つ青年が叫べば、それに答えるかのように群集の中から一人が押し出された。
それはまだ、幼い顔つきの少女。
瞳は瑠璃色で、微かに赤の混じる髪色をしていた。
震えることもなく怖じ気づくこともなく、彼女はその時を待つ。
「こちらへ」
青年の後方に立つ従者服の男が少女を導く。
壇上にあがった少女は、その双眸で青年を見据えた。
「クロ様、覚悟はいいですね」
少女は名を呼ばれて、顔を背ける。
「はい……聖王様のためならこの身を差し出すことも厭わないですから」
それだけ言うと、用意された寝台の上に横たわった。従者服の男は寝台から離れて、青年の後方へと立つ。
「今ここに、聖王様のお導きを!」
青年が高らかに叫び、群集が更に声を張り上げた時、どこからともなく世界が揺れだした。
「おお!聖王様の復活は近いぞ……ん?」青年の頭上からパラパラと細かい土が落ちてきたかと思うと、次の瞬間人が降ってきた。
「邪魔するよ」
声が届くより先に、青年は顔を踏み台にされてその場に倒れた。
「何者だ!」「異教徒か!?」「教祖さまああぁぁ!!!」
絶叫が響き、群集はパニックに陥る。
「あなたは……」
寝台に横たわっていたクロが起き上がる。
「貴様あああ!!!」
「よくも教祖様を!!」
教祖の後ろにいた従者三人のうち、二人が襲いかかってくるのを彼は何気なく避けていく。
「遅いぞセアト、二分十四秒の遅刻だ」
もう一人、クロと会話をした従者服の男が彼を窘める。
「こっちだって用があったんだ、すまないな」
喋っているにも関わらず、セアトと呼ばれた彼は従者の攻撃を避けつづけている。
「邪魔だよ、もう」
セアトが二人の隙をつき、局部に打撃をくわえる。
二人はまるでこの世の終わりのような表情をして悶絶しはじめた。
「さて、遅くなってすまない。帰るぞクロ」
「了解っ☆はやく帰ってシャトーと一緒にお風呂入るんだっ」
従者服を脱ぎながら男は言う。
「お断りですよクロ様」
長い髪を後ろでまとめて、シャトーはクロに言い返す。
「セアトが一緒に入ってくれるそうです」
クロは頬を膨らませて駄々をこねる。
「やーだー、セアトえっちぃからやーだー」
「いや、人間誰しもエロスを求めるもんだよ、うん」
セアトが挽回しようと言うが、どちらの耳にも届かない。
「それよりもここを出られてからにしましょう、その話は」
群集は既に臨戦態勢だった。皆、それぞれの手に武器を持っている。
「あー……じゃあ、まあ、ね」
思い出したかのようにセアトはスイッチを取り出して、ためらいもなく押した。
「おや、それは」
「もしかして……」
クロとシャトーが顔を見合わせた。
「うん、爆弾。後三分も経たないうちにどかんと」
セアトがにやりと笑う。
二人は呆れた顔をし、各々の思ったことを口にする。
「……とにかく、脱出しましょう」
「またこのパターンかぁ……」
ため息をつく様子からして、これが初めてではないようだった。
「それじゃま、いきますか!!」
セアトが群集の上空へと飛びこえ、群集の途切れた場所に着地する。
クロもシャトーも、同じように続いていく。
三人の後ろからは、群集が迫ってきていた。