忍者ブログ

その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

atom「3rd」

夢は夢でしかなく、その中で見ることのできるものは、記憶のデフラグによって起きるものである。
即ち、叶わない夢は見れるはずがないのだから。ということに従えば、ある程度のことは許容範囲内の夢となるであろう。
しかしそれでも、見たくもない夢を見ることだってあるのだ。

あれほど美しい鳥は見たことがなかった。
世界中の誰もがそう言いだすぐらいに、その鳥は煌びやかだったのだ。
それは大空を翔け、天に昇って行った。

火の鳥。
そう呼ばれる鳥がいるということを知ったのは、あくる日のことであった。ぼうっと、古い新聞を読み漁っていた時にその記事を見つけた。見出しには、火の鳥が舞う空と書かれており、ご丁寧に写真まで載っていた。
デッドメディアである新聞という媒体が、未だに保管されている国立図書館。数十年前までは全ての媒体が紙媒体であったと聞いている。今の時代のように全てがコンピュータで制御されてはいなかったと言われている。
天草老人はこのことを知っているのだろうか。新聞の日付は、二〇二四年と書かれている。
今から十八年も前の新聞記事。その内容を知っているとしたら、天草老人しかいない。
よくよく写真を見る。あの日、あの時見たものと、よく似ている。
鳥の形をしたあの炎と、よく似ていた。
国立図書館を出て、家に帰ることにした。
本来目的としていたはずの、学会論文を探すことをすっかり忘れていたのだが、それは今になってはどうでもよいこととなってしまった。それよりも気がかりとなる新聞記事の火の鳥。はたしてそれは、あの時見たものと同じものなのか、それとも。

「ただいま」
家の中に向けて声をかける。
奥からおかえりなさいという声に遅れて、十和がぱたぱたと足音を立てて玄関までやってくる。
「お昼、たべたの?」
そういえばもうそんな時間かと時計を見る。とっくの昔に正午なんて過ぎていたようだ。今になって空腹感がやってくる。現金な体だ。
「いや、お昼どころか朝ご飯もまだだよ」
そう言って足はリビングへと向かう。
「そういえば、天草の爺さんと連絡ってとれる?」
十和は一瞬きょとんとして、すぐに口を開く。
「とれるわよ。ただ、少し時間かかっちゃうかもしれないけど」
「いや、それでもいいよ。確かめたいことができてさ」
流石、権威と呼ばれるだけのことはある。侮れない老人だ。一筋縄ではいかないということだろう。
「じゃあ、お願いしてもいいかな」
十和はいいけど、と口をつぐんだ。
「……何?」
「何か、あったの?」
不安を掲げたその瞳は、僕をよく見ていた。
今まで彼女と暮らしてきて、何度も見たことのある瞳だ。
「ああ、今から話すよ」
リビングのソファに腰掛けて、一息つく。
お茶持ってくるね、と十和はキッチンに入った。
僕は何を、どうすればいいのだろうか。

大人げないじゃないか、それはと思うことがたまにある。
たとえばその発端はどうでもいいことだったりする。
冷蔵庫にあったケーキを勝手に食べられたから拗ねて口を利かないとか、ちょっとした食い違いでお互いに気分を害するとか。
この場で言えばまさしく、前者がそれに値する。
原因は、ほかのところにあるのだけれど。たまたま、話の途中で懐かしい話を持ち出しただけだったのだけれど。それがこのことの引き金を引いた。
「十和、そろそろ機嫌なおしてくれないか」
テーブルを挟んで正面に座る彼女に問いかける。澄ました顔で何も言わずに彼女は座っていた。
僕の言葉なんか気にすることなく、読書をしている。本当、どうしたものかこの子は。僕としては、食事も終えて話が済んだのはいいけれど、これじゃあ明日の買い物すら一緒に行けないだろう。
「……なら、もう今日は休みなよ。シャワー、先にいって。片付けは僕がやっておくから」
まだ片付いていない食器を持って、席を立つ。
十和はそれでも、表情ひとつ変える事がなかった。

食器を片付けながら、カーテンの向こう側がやけに明るいことに気づいた。時間は20時を少しだけ過ぎたところだ。
遠くからサイレンの鳴る音が聞こえる。どこだろう。
胸騒ぎがする。
「消防車のサイレン……」
リビングの窓のカーテンを開けて、明るい方向へと視線を投げる。
火事だ。
大きな炎が、轟々と燃え盛っている。
そう遠くはない。あれはどの辺りだろう。
考えるまでもなかった。
唐突すぎて、考える余裕が存在しなかっただけだ。
あの辺りには、両親の墓がある。

「こちら現場から中継です! 実相寺墓苑を中心に、火の手があがっております。ええ、炎は勢いを増して」
突然聞こえた声に振り返る。
十和がテレビをつけたようだ。
どんどんチャンネルを変えていくが、どのチャンネルも同じ内容の緊急報道がされているようだ。
その炎はまるまると太った大蛇のように地を這いずり、時に噴火した火山のように跳ね上がった。
実相寺墓苑を上空からヘリで映すチャンネルに切り替わる。
辺り一面が火の海だった。
呆然とテレビを見るしかない僕に、そっと十和が寄り添ってくる。
「修二、これって……」
何とか気を持ち直して、彼女の肩を抱く。
僕はそうすることでしか、彼女の不安を取り除く方法を知らなかった。
「あっ、今、本殿が!」
テレビの中でキャスターが叫ぶ。
本殿が燃えて、崩れ落ちていく。
撮影のためとはいえ、何台ものヘリが墓苑の上空を飛び交っている。
炎は更に勢いを増していく。
墓苑を含む周囲3キロは既に焼け野原になりつつある。
そうして、燃え上がった炎の中に。

僕は、あの時見た鳥を見た気がした。



翌日。
未だ炎は燃え盛り、周辺住民への避難勧告が国から出された。
周辺住民と言っても、実相寺墓苑自体は高倉山中にあり、麓の村まで行かねば人里がない。そのため、村に避難勧告が出たと言っても過言ではない。実相寺墓苑から麓の村までは、十キロほどの距離がある。
その村を境に、一般人立ち入り禁止の包囲網がなされた。
僕はもう二度と両親の墓を拝むことができなくなったのだ。


つづく

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする

Copyright © その数秒を被写体に : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]

管理人限定

カレンダー

02 2025/03 04
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

フリーエリア

最新コメント

[11/11 りょ]
[11/20 Mes]
[11/16 りょ]
[10/14 朋加]
[09/29 朋加]

最新記事

(05/20)
(05/15)
(05/11)
RAY
(05/11)
(05/09)

最新トラックバック

プロフィール

HN:
ikki
性別:
非公開

バーコード

ブログ内検索

P R

カウンター

アクセス解析