雨のにおいに目を覚ました。枕元に置いた目覚まし時計の針は深夜の二時をさしている。襖を開けて外を見ると、土砂降りとまでは言わないがそこそこの雨が降っていた。もう暖かい季節だというのに、よく雨が降る。今年は暑くなるだろうか。
雨が好きだとは誰にも言ったことがないが、いつか庭のある家に住むのが夢であるとはよく言うのだ。広い部屋で一日中本を読んで暮らしたい。長屋でもよい。日本の風情を感じられるならばそれでよい。
雨の降る音や、においに惹かれてもう何年になるだろうか。検討こそつかないものの、それはとても長いものであると記憶はしている。やはり、晴れた日の方が好きではあるが、雨の音を聞きながら夜の静寂に身を投じて眠りにつくのも一興だろう。少なくとも今の状況ではそう思うほかない。
この雨が過ぎれば、いよいよ本格的に春が来るだろう。春が来たらまず何をしようか。あれもしたいこれもしたいと、気が気でない日々が訪れるだろう。しかしどうだ、一緒にそれをする相手がいないと話にならない。その点は抜かりなく、ちょうど今、隣で眠っている娘と行うのが正解だろうと思う。昔からの馴染みで、つい先日夫婦となった。長い間一緒にいたのが幸を成してこの形におさまったとでも言うのだろうか。それ以外にはないのだろう。
しかし、いつまで一緒にいられるだろうかは不安である。よっぽどのことがなければ問題なく過ぎていくだろう。どうなのだろうかそこは。
目下の目標は眠ることにある。いくら雨が好きとはいえ、流石に眠たい。時間も時間なので、このままもう一度眠ろう。
娘を抱き寄せて、瞳を閉じた。
この娘でよかった。本当に、よかった。心からそう思っている。