僕がその友人と出会ったのは、今から八年前のことであった。
当時僕は高校に入学したばかりであり、まだ世間というものをよく知らなかった。
その僕に世間を教えて、世の理を覚えさせたのが彼であった。
彼とは共に遊び、何をするでも一緒だった。
彼はいつも遠くを見て言っていた。
「面白いものも、面白くないものも全てひっくるめて、全部楽しいんだ」
近年、彼ほどおかしなことを言う人を見たこともなければ、彼ほどまともな輩も見たことがなかった。
ある時偶然にも、其の友人の祖父が手がけた書物を見せてもらえることになった。
彼の祖父は物書きをしていたわけではなく、ただそれを趣味として書いていたという。
存命中、その存在を知る者はなく、彼の母方の実家である祖父の家の蔵から遺言状と共に見つけられたらしい。
其れは、三十六の寓話から成りし書物で在る。
装丁は紐で簡単に綴じられたものであり、幾分か厳重に保存されていたようで、割かし保存状態はよいようであった。
序文は以下のとおりである。
世界に舞い降りし鳥は、まるで紅い血のように咲き誇る華に留まった。
塔の上に住まいし神は、甘き言葉に寄せられその鳥と出会う。
金色の狐は、逆転した様を世に送り出した。
生活の為に発展を求めたのは、人だけであった。
少女は平凡な日常を求め人でないものと邂逅し、それでも尚言葉を欲し、もう一度世界を見る。
これを異端寓話と称す。
僕にはよくわからない。
けれど、まるでそれは夢のような話の詰まった書物であった。
その書物に出会えたことを、僕は感謝している。
そして、今その書物を、此処に公開せんと--
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