僕らの住んでいた家が取り壊されていたことに気づいたのは二月ほど前のことだった。
家の前を通りかかった友人から聞いた話だったので、僕はあくる日の夕方、それを確認するために家に行った。
文字通り、跡形もなくなっていた。
誰も住んでいなかったのか、それとも立ち退きでいなくなったのかは知らないけれど。
僕らの住んでいた家は、なくなった。
木造七十年ぐらいの古いアパート。
六畳間と八畳間、そして台所にトイレが一つ。
風呂は共同で、外にある。
そういう古いアパートだったんだ。
こないだ、また行ってみた。
新しい何かが建設されるらしい。看板が立っていた。
僕は何だか少し、悲しい気分になった。
あの家で過ごした十四年は、かけがえのないものだったのだから。
せめて。
僕らに残されたものの一つでも。
長く長く残っていればいいのにと思った。
今でさえ、何が残っていて何がなくなったのかだって、わからないのに。
それでも、あのころの思い出は消えてしまわないように。
心の奥底にしまいこんだ。
そんな夏の日。
蝉がしゃわしゃわみんみん鳴くのを耳に聞きながら、冷房の効いた部屋でデスクトップに向かっている。
もう少ししたらバイトに行く時間だ。
ぼーっとしていたい時間が、今あるからこそ。
心いくまでゆっくりとしてしまおうと思う。
しまいこんだ思い出は。
いつかまた日を見れるのだろうか。