「私が受けた寵愛を気に食わないと大伯母様に言われて、私は蔵に閉じ込められました」
「僕がうっかりお客様の着物にスープをこぼしてしまった時は、誰かに階段から突き落とされました」
「…あたしは…服を脱がされて、背中に焼きごて…を…押し付けられました…」
「俺は水攻めにあった。狭い地下室に閉じ込められて、目隠しをされて、ずっと天井から垂れてくる水を顔に受け続けた。結果、精神がボロボロになった…」
四人の証言は、どれも部下の躾とは言い切れない過剰なものだった。
途端に、暗い表情だった四人の様子が変わる。
「でも、あの時の大伯母様の顔ったら、見ものだったわよね」
「うん。助けてぇなんて声出してさ。」
「…いい気味だった…よね」
「ああ、なんてったって、あそこにゃ――本物の鬼がいるんだから」
ケラケラと四人は笑う。誰に見せるでもなしに、気味の悪い笑い方で。
「――という話を昔聞いたことがある」
「なによそれ…」
どうせ世界が崩壊するならと、オカルトスポットでも巡ることにした。一つ目、鬼の潜む洞窟、鬼隠洞。
「その話は、今から100年ぐらい前の話らしいから…」
「だから、なんなのよ…」
姉の身体は心なしか震えているように見えた。
「ここがその、大伯母を閉じ込めたって洞窟だ」
目の前に広がる大きな洞窟。
その風貌からは、特に恐ろしいといった感想は得られない。何しろ、端から見ればただの洞窟だ。洞窟自体は封鎖されてはいるし、入り口は頑丈そうな鉄柵に、洞窟の入り口上部に群生している樹木の根が絡まって見事に入れなくなっている。
「…こ、怖くなんか…ないよ…?」
肩が震えております。説得力がありません、お姉さま。
「ま、その話の四人も、どうなったかってのはわからず仕舞い。そんな伝説があったぐらいにしか語り継がれないさ」
怯える姉を落ち着かせながら、頭を掻く。
「さて、そんじゃ次、行きますか」
「え、どこ、行くの?」
「郷土資料館と旅館、どっちがいい?っても旅館なんざやってないだろうけど」
だったら旅館と、姉は即答した。
素直なとこだけは、昔から変わらない。