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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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世界崩壊のお知らせ14

九支枝の葬儀は随分ひっそりと行われた。
集まったのは、親族と少しの友人たちだけ。本当なら彼女のためにもっと集まらなければいけないのだ。
写真の中の九支枝は笑っている。
我が子を見守るかのような表情で。
皆、我先にと地球から出て行く。
自分の生まれた星を捨てて。

そういった流れの中で、九支枝の死はどれだけの影響を与えたのだろうか。
少なくとも俺の中では、彼女の存在が大半を占めていた時期があるので、言葉にできない。
九支枝の両親は、俺のことを覚えていてくれた。
高校時代、九支枝の家族には世話になったことがあった。
それは今語る必要はない。いずれ、世界が崩壊しても俺が生きていたら語るのだろう。
交わせる言葉がなかった。
葬儀が終わり、出棺となって。
火葬場で彼女を見送った後。
俺は九支枝の両親と対面した。
九支枝の両親はとても辛そうな面持ちでいた。
それでも、俺のことを思ってか、父親である宗平さんは語ってくれた。
話は今から四日前、九月八日に遡る。
俺が九支枝と会った直後、九支枝は帰路についた。
そして、俺と会ったことを両親に話していたそうだ。
久々にあんな笑顔を見た、と宗平さんは言った。
夕飯も一緒にとり、いつものように家族団欒を過ごしていたそうだ。
そして、彼女の携帯が鳴り、少し出てくると言ったのが最後。
どこに行くんだと、宗平さんが聞くと、彼女はこう言ったそうだ。
『高校の時の、友達に会いに』

変わり果てた姿で彼女が見つかった場所は、ある古本屋。
迷路のような複雑な本棚の並びの中、一番奥で彼女は血まみれでいたそうだ。
連絡を受けたのは、夜中だったらしく、両親も心配していたところだったとか。
何故あの子がこんな目に合わなければならんのだと、宗平さんは嘆く。
俺は、聞いていて頭がずきずきと痛んだ。
赤ん坊の泣く声が聞こえてきた。
振り向けば、そこに九支枝の母親である良子さんがたっていた。
腕の中には、二つの命。
九支枝の残した命が、そこに存在していた。
双子、そう聞いていた。
そういえば、九支枝自身も双子だったとかいうような話を聞いた記憶がある。
二人とも、どこか九支枝の面影がある。
気がつけば、その子たちを抱かせてほしいと言い出していた。
良子さんは快く返事をしてくれて、俺は同時に二人を抱えることになった。
先ほどまでは泣いていた二人だったが、今は安らぎを感じたかのようにおとなしい。
この子たちが残された意味がどこにあるのだろうか。
涙が流れ、二人の顔におちる。
良子さんは気遣ってくれて、涙を拭いてくれた。
宗平さんは、子供をなだめるように肩を抱いて諭してくれた。
何で、だろう。俺よりも辛い人たちが、ここにいるのに。
俺が一番悲しいみたいに、泣いているだなんて。
この時ほど、自分が恨めしく思えたことはなかった。

火葬が終わり、骨壷に骨を納める作業がはじまった。
この瞬間こそ空虚な時間だと思う。
骨だけになった彼女が一つの空間に納まるのを、ずっと目で追っていた。
ああ、俺は何をしているのだろう。
九支枝の子供たちは、ずっとおとなしくしていた。

全てが終わり、また余裕ができたら連絡すると告げて俺は九支枝の両親と別れた。
何もしたくない、このままどこかへ行きたい。
そう、思ってしまう自分を、何故か受け入れようとしていた。
ハイネのことも気になっていた。
昨日の今日で、まだニュースではハイネのことをとやかく言っている。
俺としても、葵としても、その扱いは目に余るような光景だった。
葵は今日はずっと家にいる。
ハイネのことが気になってしまって、何も手につかないだろうとは予想はしていた。
九支枝を殺した殺人鬼を、俺は許すことができないだろう。
そう、思っていた。
思っていたら、路地を曲がったところで人にぶつかった。
そのまましりもちをついてしまい、戸惑う。
「わっ、びっくりした」
「あ、すいませ…ん」
目の前から歩いてきたのであろう人物は、この暑い中、厚手の羽織を着ていた。
綺麗な色あいの羽織で、黒地に金。
「はは、ぼくもたまにやるんですよね。気をつけないと、とは思うんですけど」
笑っている羽織の男の向こうにいた女の子が近づいてきた。
「御津耶さん、笑ってないで先に謝っておいたほうがいいのでは」
きょとんとして、男は口を尖らせる。
「ああ、そうでした、すいません」
男は立ち上がり、俺の手をとって言った。
「前を見ていなかったのは私も同じでした。お怪我はありませんか」
なんと、一瞬で紳士的な態度になった。
それに驚きつつも、ええ、まあとかしか返せない。
それはよかった、では。と言って男は行ってしまった。
後ろにいた女の子も、俺に一礼をしていった。
男の背、羽織には鬼の絵姿が描かれていた。
それに見とれてしまった。
禍々しくも美しい。
携帯が鳴る。
そういえば、今朝から電源を入れっぱなしだった。
九支枝の葬儀の最中にならなかったのが幸いだった。
コールは七回。
俺はそれを確認して、すぐにかけなおした。
「どうした」
電話の向こう、一つ咳払いをした相手が言った。
「やあ、殺人鬼についての新しい情報が入ってね」
挨拶もなしに彼は言った。
息を飲んで返事をするのを忘れるぐらいに。
俺は動揺した。
「殺人鬼斎藤は、羽織で行動しているそうだ」
羽織?
ゆっくりと、振り返る。
まだ、あの男はそこに。
少女の向こうの、後姿。
「背に、鬼の描かれた羽織を…」
携帯を耳から離して、声を荒げて。
叫んだ。
「なあ、あんた、そこの羽織の――」
男は振り返って、にやりと笑った。




「殺人鬼篇再開。同時に、宝石商篇開始」

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