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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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世界崩壊のお知らせ10

翌日の朝刊には「殺人鬼が造りだした、二十九番目の遺体」という見出しの記事があった。
俺は被害者の顔写真を見て背筋に悪寒を覚える。
九支枝優子。
昨日会ったばかりの彼女は、交わした約束を永遠に守れなくなってしまった。
唐突すぎて、俺には何が起きたのか理解し難かった。
なんとも言えない気持ちになる。
「おーはーよー」
背後から降ってくる声と覆いかぶさってくる何か。
「今日も朝から勉強家だねぇ…」
欠伸をしながら俺の頬に頬擦りをする葵。
「ん、おはよ。今朝は早いね」
何とか平静を繕い、精一杯、いつもの対応をする。
「…そう?」
葵は俺から離れて冷蔵庫を漁る。
「あ、朝飯なら俺が」
「いい。なんか君、変だから」
俺は固まる。繕ったのは無駄だったらしい。
「……」
昔からこういう時ばかり彼女に見抜かれる。
「あーあー、お姉ちゃんはそういう子に育てた覚えはありませんよーだ」
一緒に育ってきた覚えはあるが、育てられた覚えはない。とは思っていても言えない言葉だった。
「頭すっきりしたら、ちゅーしてあげないでもないけど」
「いや……そういうのを望んでるわけじゃ…」
一体何を考えているんだ朝っぱらから。
「え……?」
ああもうだめだこの姉。
「ちょっと散歩してくるよ」
返事も待たずに俺は家を出た。



部屋に残る弟の温もりだけを感じ取り、朝食の用意をする。
別に、いないからって、取り乱したりはしない。
少しも寂しいだなんて思わなかった。
でも。
求められたい。
全部だなんてワガママは言わないから。
少しだけで、いいから。

「あたし、どうしちゃったんだろう…」
あの子がいないだけで、気分が落ち着かない。
涙が出そうにもなる。
あたし、どうしちゃったんだろう。
とりあえず、朝ごはん食べなきゃ。
気晴らしにとテレビをつける。
特に何もやっていないけれども、このままじゃどうにもできない。
チャンネルを回してニュースにした。
昨夜の事件、例の新聞に出ている記事のことをやっている。
そういえば、被害者は弟の同級生だったか。
……何だか、嫉妬に近い感情がうまれそうになる。
それを抑えて、料理に没頭する。
何で。
「何であたしたちは姉弟に産まれちゃったんだろう」
自然と声が漏れて、指先に痛みを感じる。
「あっ…」
指先を包丁で切ってしまっていた。
ほんの少しだが、血がじわりじわりと滲んできている。
それは手の甲を這い、一筋の軌跡を残してまな板の上にぽつりと落ちた。
あたしをつくるこの身体を流れる赤い液体をじっと眺めていた。
今日は九月九日。
あたしは、ただただ眺めていた。
弟の座っていたソファを。
弟の読んでいた新聞を。
流れる血は、床にぽつりぽつりと落ちる。
たいした切り傷ではない。
ほんの少し、薄皮が切れたくらいである。
その指を、指先を咥えて。
朝食も何もほっぽり出して。
両親は、一週間ほど帰ってこないらしい。
最後の旅行になるかもしれないと言って、二人そろって仲良く出て行った。
あたしは弟の帰りを待つことにした。



ひとつのカギを見つけていた。
それだけに、神経が集中していた。
殺人鬼斎藤が、誰であるかということを、俺は気づいていた。
いや、理解したと言っても過言ではない。
斎原からもらった資料に目を通していて気づいたのは、殺人鬼の特徴がある人物と一致することだった。
それが真実かどうかは、斎藤に出会って直接確認しなければいけないだろう。
どう転んでも、リスクが大きくてとてもじゃないが耐えられないだろう。
殺人鬼が他の人間であることを祈るだけだ。

少し頭も整理できて、心に余裕ができた。
気がつけばもう昼飯の時間だ。
家に帰ると、ソファで姉がまるまって眠っていた。
枕にしているクッションに、微かに付着している赤い……これは血か?
よく見れば、床にもまな板にも少しだけ血の垂れた跡がある。
姉はすやすやと寝息をたてているが、指先に傷があった。
さしずめ包丁で怪我でもして、そのまま朝食をつくるのが面倒になったのだろうと勝手に解釈する。
姉を揺り起こすことにした。
「もしもーし、起きてー。起きてくださーい」
するとどうだろう、眠りが浅かったのかどうか、葵はすぐに声を上げてのっそりと起き上がった。
「姉ちゃん、朝飯あきらめたのか」
猫のように伸びをする葵に優しく声をかける。
「ん……おかえりぃ」
ぎゅうっと抱きつかれる。
「ちょ…」
「寂しかったんだよぉ……」
子猫のように甘える葵の髪をなで返す。
「いや、だって」
「だってとか言うの禁止……」
抱きつかれたまま、俺と葵は床に転がる。
「姉ちゃん…」
葵は俺の胸に顔をうずめたまま動かない。
「ん…いいにおい…」
俺は動けない。
昨日かまってやっただけじゃ足りなかったらしい。
「ねえ…よつかぁ」
呼ばれて応える。
「なに?」
「……このまま、ね…?」
上目遣いに甘い声。
逃れる術はなし。

そうして、九月九日は終わっていった。
翌日もまた、何ら変わることもなく終わりを迎えた。
殺人鬼に関するニュースが流れたのは、翌週の月曜だった。
世界は一変して、殺人鬼は消えていった。
俺の元に残ったのは、わだかまりと悔しさだけだった。







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