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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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世界崩壊のお知らせ-そうして世界は廻りだす

昔から姉ちゃんには敵わなかった。
物心つく前から、そうだったのだと両親に教えられた。
何をするにも、姉ちゃんの方が優れていた。
俺もできなかったわけじゃない。
勝負事だって大きく負けるのではなく、僅差で負けていた。
いつもだった。

でも、姉ちゃんは俺より何かができるからといってそれをおくびにもださずに平然としていた。
ひとつが終わったら、すぐに次の目標を持っていた。
それゆえに、俺は悔しくて。
勝った負けたの勝負だと、一人で思い込んでいた。
だから、姉ちゃんのことでいい思いではない。少なくとも、俺の心が変わるまでは。
ひとえに言えば、姉ちゃんのことが嫌いだった。

それが日常になっていたある日、通っていたスイミングスクールで、姉ちゃんを打ち負かした。
僅差だったけれど、俺は勝った。
今まで勝つことのできなかった姉ちゃんに。
俺はそれを心の底から嬉しく思って、両親に自慢した。
両親は微笑んではくれたが、何も言わなかった。
でも俺は何故、何も言われないのかなんて気にしなくて。
姉ちゃんに、言ったんだ。

「俺、姉ちゃんに勝ったよ!姉ちゃんの記録より、早く泳げたんだ!」

てっきり、悔しがると思ってた。
でもちがった。
姉ちゃんは、それを聞いても、平然として、でも微笑んで言った。

「そう。よかったね、おめでとう」

ただ、それだけだった。
俺は、うん、そこで何で姉ちゃんが俺を褒めてくれたのか理解なんてできなかった。
俺の中で渦巻いていた、嫉妬とか喜びとかは一瞬にして消えてった。
残ったのは、うつろな気分だけ。
それから、俺は姉ちゃんに何かで勝とうとか、そういうことを考えるのはやめてしまった。
姉ちゃんは何で、負けたのに笑ってるんだろう。
それだけが、ずっと気になってしまっていた。

年齢を重ねるに連れて、姉ちゃんとの距離は開いていった。
それに連れてなんとなく、姉ちゃんが笑ってくれた意味を理解することができてきた。
いつしか俺も、姉ちゃんと同じことを思うようになっていたのかもしれない。

ある日、姉ちゃんが泣きながら帰ってきた。
憧れの先輩に告白したら、即答で断られたとか。
泣いている姉ちゃんを見て、本気だったんだなってのは一発でわかった。
同時に、胸の奥が痛んだ。
泣いている姉ちゃんの姿なんか見たくない。
それがきっかけになって、俺は姉ちゃんを守らなくちゃって思った。
姉ちゃんが高校二年、俺が中学一年のころのことだった。
姉ちゃんが高校を卒業するまで、俺は姉ちゃんのことを一番に考えてた。
何があっても守るつもりでいた。
シスコンだと言われても気にならなかった。
守らなくちゃいけない相手がいるからと思えるだけで、随分と強くなれた気がしたから。
姉ちゃんが大学に進学して一人暮らしを始めるって聞いた時は度肝を抜かれた。
寂しいとは思わなかった。
せめて、悪い虫がつかないようにと、心の底から願っていた。

五年。
守らなくちゃって、決めてから五年。
姉ちゃんを嫌いだという気持ちは、いつの間にか消え失せていた。
変わりに、好きだという感情が産まれた。
姉ちゃんと一緒なら、何でもできる。
そういう気分でいられた。
姉弟としてではなく、恋人として見るつもりでいた。
そして、世界崩壊のお知らせがあったあの日、姉ちゃんが家に戻ってきて言った言葉。

「弟に、会いに来たんだ」

嬉しくて、発狂するかと思った。
でも、露骨には出せなかった。
実の姉に恋愛感情を抱くなんて可笑しい。
そう思っていたからだ。

もやもやした感情を、いつか言おうと決めていた。

千鶴さんの民宿から帰ってきて三週間がたった。
今日は、ニュースで言っていた世界崩壊の日。
あの後、俺たちは神様と閻魔って名乗る二人に出会った。
他にも、変なやつらばっかに会った。
冷酷非道な、でも心の優しい殺人鬼、斎藤。
歌うことを忘れた、少し天然気味の歌姫ハイネ。
宝石商を名乗る男神崎と、それに追従する少女燐。
飄々とした青年と中世的な少女、圭と遼。
日夜努力を続ける科学者とその細君である園山夫妻。
落下しつづける少女マリッカとそれを追う復讐者アラカンサス。

みんな、変な奴だったけどいいやつらだった。
会ったのは一度きり。
連絡先の交換とか、そういうのは一切してないけど。
きっと、奴らなら生き延びるだろうなと、俺は思う。

俺は、家に帰ってきた。
姉ちゃんも一緒だ。
最後の瞬間まで、一緒にいようと。
起きて、世界の崩壊するさまを見届けようって決めた。
俺に寄りかかるかたちで、姉ちゃんは座ってる。
外は、まだ暗い。
ニュースもやらなくなった。他のテレビだってやってない。
もう地球に残っているのは、俺と姉ちゃんだけ。
そう思っていたら、他の誰かが残っていたらしく、ラジオからは音楽が流れ続けていた。
ネット上では、地球に残っている人たちのつくったコミュニティもあるらしい。
本当に、一握りだけ、残っているみたいだ。
両親も、チケットを手に入れることはできていたみたいだ。
でも結局、俺と姉ちゃんが地球に残るって言ったら俺たちを置いていったら、親としての面子がどうのこうのとか言ってた。
それがおかしくて、俺と姉ちゃんは笑った。
最後だから、って両親は俺と姉ちゃんに言ってなかったことを教えてくれた。

本当は、俺たち姉弟は血が繋がってないってこと。
両親はどちらも再婚で、俺は母さんの連れ子、姉ちゃんは父さんの連れ子だったってこと。
ほかにも色々聞いたけど、よく覚えていない。

手を繋いで、ゆっくりと上にあげる。
「……どした?」
姉ちゃんが眠たそうな声で言う。
「まだ、信じられなくてさ」
「うん、あたしもだよ」
どこか寂しそうで、でも少しだけ嬉しそうな声色。
「でも、嬉しい。あたしは少なくとも嬉しいよ」
俺の顔を見上げて姉は言う。
「これで、今まで言えなかったことが言えるんだから」
優しい笑い方。
姉ちゃんの、一番綺麗な、自然な笑顔。
「言いたかったこと?」
ふふ、と笑っている。
「俺も、あるよ、言いたかったこと」
「……知ってるよ」
静寂の中で、二人の声だけが響いてる。
窓は、カーテンを閉めないで外の暗さだけを俺たちの目に焼き付ける。
「そっか……でも、きちんと言うよ」
「うん、言って?」
日の出まであと少し。
両親はもう寝ているだろう。
千鶴さんも、斎藤も。
神様も閻魔も。
ハイネも神埼も燐も。
圭も遼も、マリッカもアラカンサスも。
「姉ちゃん、俺」
愛するものを、愛しいものを。
「姉ちゃんのこと」
守るために、この星に。

「愛してるよ」

「うん、あたしもだよ」

世界が崩壊する=世界が終わる、ではない。
これからの世界を、俺たちがつくるために。

その瞬間、日はのぼった。













世界崩壊のお知らせ。





























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