忍者ブログ

その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

おとうさんとチワワ

今日は初めての授業参観日だ。
初めてという表現方法には少し語弊がある。まゆはもう3年生なのだから。今までは仕事仕事で構ってやれず、授業参観にはいつも妻に行かせていた。だが、今回ばかりはどうしても出ておきたいと思って、仕事を昨日までに終わらせた。ちゃんと引き継ぎもしてきた上で、何かトラブルがあった場合には、俺以外の者に聞くようにと念をおしてきた。
有能な部下たちのことだから、そうそうトラブルはないだろうが。それを踏まえた上で、夫婦で授業参観に来たのだ。
周りには、俺たちよりも若い父兄がいる。何だあいつ、髪が金髪じゃないか!向こうの母親は何だ、たまに接待で行く店の店員みたいな風貌じゃないか!
一体どういうことだ……。
目頭を抑えてため息をつく。妻はニコニコしながら授業風景を見ている。
「おとうさんとチワワ 3年5組、伊藤まゆ」
聞き慣れた声がしたので顔をあげると、愛しの娘、まゆが立ち上がっていた。
手には作文用紙らしきものを持っており、これから読むのだという意気込みが感じられた。
「わたしのおとうさんは、いつもおしごとで、めったにおうちにいません」
いきなり痛烈な文章を読まれ、何故か胃がキュッとなった。
「おうちに帰ってきてもすぐに仕事にいってしまいます。わたしはおかあさんと二人でいることが多かったです」
これまたストライク。確かに俺は仕事しかしてこなかったが、それを言わなくてもいいんじゃないかな、まゆ。
「おかあさんに寂しい?と聞いたら、おかあさんはまゆがいるから寂しくないよと言われました。まゆはとても嬉しく思ったので、まゆもおかあさんがいるから寂しくないよ。と言いました。おかあさんのことはだいすきです」
え……そんなことがあったの?俺何も知らないんだけど。そう思い妻を見ると、何故か涙ぐんでいる。泣くようなことかと俺は思ったが、スーツからハンカチを取り出して渡してやる。
「わたしは、クリスマスに欲しいものを、カードに書いておとうさんに頼みました」
……ん?クリスマス?
その単語を聞いて、俺はあることを思い出す。まゆが作文を読むにつれて、その時の記憶が鮮明に蘇る。
「おとうさんへ、まゆは、チワワがほしいですと書いておいたのです。それをおとうさんのつくえの上においておきました。そうしたら、わたしの枕元によーし、パパにまかせろ。でも、おしごとがあるから今度の休みになと書かれたカードがおいてありました」
ああ、やめて、やめてくれまゆ。
「わたしは嬉しくて、はやくおとうさんのおやすみがこないかなと待ち遠しくなりました。ある日、学校から帰ってくると、おとうさんの靴が玄関にありました。私はランドセルも下ろさずにおとうさんのいるであろうリビングへと駆けました」
息を飲む音が、周りから聞こえてきた。
「おとうさん、おかえり!チワワは?と私が聞くと、おとうさんは、ここだよと言ってリビングのテーブルの上を指差しました」
逃げ出したい、一刻もはやくこの場から。ゆっくりと教室を出ようかと思い、体の向きをゆっくり変え……妻が鬼の形相で俺を睨んでいる!!俺はひるんで動けない!!
しかもなんか、周りの雰囲気もおかしいよ!?みんな魅入られてるよ!?
「そこには、まるまるとした、大きな一本の、チクワがありました」
教室内で悲鳴があがった。さっきのケバい母親だった。大きな音を立てて、転けたのは先ほどの金髪の男。どうやら腰が抜けたようで、立ち上がれないでいるようだった。ほかにも悲鳴はあがり、教室内はパニックとなっている。
それでもまゆは作文を読み続けた。
「わたしはそれを見て言いました。ちがう、わたしがお願いしたのはチワワ!チクワじゃなくてチワワなの!目からは大粒の涙が零れていました。おとうさんはにがわらいしながら、ごめんごめん、パパチワワとチクワを間違えちゃったよ〜、と、全く謝る気がないのか、そんな言い方をしました」
教室内のパニックは少しずつ収まりつつある。俺は顔から火が出そうだ。
「いつもおしごとで忙しいおとうさんですが、わたしにとってはたった一人のおとうさんです」
あれ、何だこの流れ……。
「わたしはそんなおとうさんが」
パニックは完全に収まり、みながまゆを見守っている。
まゆはそれに答えるかのように、口を開いた。
「だいっきらいです!!」
俺の心臓に取り付けられた爆弾が爆発したかのように、俺はショックを受けた。
あがる歓声、止まない拍手。教師がブラボーと叫びながら拍手をし、生徒たちはまゆを胴上げしはじめた。
それにならってか、妻が先陣をきって教卓の上に立ち踊り出した。
他の父兄も踊り出した。どこからかノリのいい音楽が流れてきた。授業参観日は一気にダンスパーティーに変貌を遂げた。
なんだかよくわからないのだが、妻が踊っていて、まゆも踊っている。
とりあえず、俺も踊ってみた。
もう何でもいいよと思った。

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Copyright © その数秒を被写体に : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]

管理人限定

カレンダー

03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30

フリーエリア

最新コメント

[11/11 りょ]
[11/20 Mes]
[11/16 りょ]
[10/14 朋加]
[09/29 朋加]

最新記事

(05/20)
(05/15)
(05/11)
RAY
(05/11)
(05/09)

最新トラックバック

プロフィール

HN:
ikki
性別:
非公開

バーコード

ブログ内検索

P R

カウンター

アクセス解析