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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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それでも世界は生きているから 圭と遼篇

今こうしている間にも、遼の様子は変わらない。気がつけば、外は完全な闇に包まれていたのである。
「まだ七時にもなっていないのに……」
辺りの暗さに愕然とする。街灯が遠くに見えてはいるが、それも心細い灯りを放つだけだ。
まるで生気の感じられない遼を見ているだけしかできないのだ。悔しい。悔しくてたまらない。
所詮、何もできないのかと心の中でごちる。人の記憶が読めたって、何の役にも立ちゃしない。そうやって自分を責めるしかできない臆病者なんだ。
何もかもを失ったように感じ、それじゃ駄目だと、どこかで気づく。一度頭の中を整理しようと、車を出る。
昼間は暑くなったこの地域も、夜は寒いままらしい。やけに風が冷たく感じ、そういえば汗だくで戻ってきたのだと気づく。シャツは汗でべっとりとしていたし、一度着替えた方がよさそうなのは明白だった。
吐く息はやはり白く、車の灯りでそれが認識できる程度ではあった。
星空が綺麗だ。 しかし、月は隠れてしまっている。
遼と一緒に眺められたらどれだけいいだろうか。ぼーっと考えて、ため息をつく。
そろそろ車に戻ろう。遼のことも心配だし、人のいるところに行けば遼は助かるかもしれない。車の方へ向き直り、ふっと目線を上にあげた。
車の屋根の上に座り込む、奇妙な奴がいることに気づいた。
「な……何だ、お前……」
それは、いつの間にか戻ってきていた月の光を受けて輝いていた。いや、輝いていたように見えただけか。人とは違う、何かなのだと雰囲気で理解できた。得体のしれない感覚に、生唾を飲む。一体、こいつは何者だろう。記憶を探ろうと目を凝らす。
そいつはこちらに気づくと、屋根から飛び降りてきた。一瞬だった。声をあげる前に、目の前にそいつはいたのだ。
記憶が読めるはずが、なかった。その一瞬で間合いを詰められて、見下ろされる。人でないということを認識させられる。瞳はまるで燃えるように赤い。誰もが燃える火のようだと認識するぐらいの赤さだ。
その双眸に見下ろされ、身動き一つとれないでいる。
また月は雲に隠れてしまった。
様々な考えが、頭から手先から、身体中を駆け巡っていく。どうする。この目の前の存在に、どう対処するのか。逃げる。逃げる? こいつの後ろに車があるのに、それを置いていくとでもいうのか。遼を置いていくつもりなのか?
考えうる術をほとんど捨て、一つの可能性に思考が偏る。それを捨てられるほど、未熟ではないつもりでいた。
「どうした、人の子よ」
不意にそいつが喋りだした。驚いたのもつかの間、二の句が告げられる。
「君の愛する彼女は、世界に選ばれたのだ」
意味のわからない言葉だった。それを、頭の中で何度も反芻する。
「なに、言ってるんだ、それ……どういうことだよ」
世界に選ばれた、なんて、一体。
「分かっているだろう、この世界の現状を」
真っ直ぐに見つめられ、余計に動けなくなる。その瞳には、何かが宿っているようにも見えた。
「彼女は、我らのためにこの世界に選ばれたのだ」
「説明、してくれよ……」
俺は、この不思議な奴の言うことを素直に信じた。
いや、信じたというよりは、聞かなければならないと思ったのだ。
「いいだろう。心して聞け、人の子よ」
そいつは空を仰ぎ、一声吼えた。
それは風を呼び、雲を退け、隠れていた月を呼び戻す。
「彼女が選ばれた理由、そして」

「この世界が崩壊した理由を」



そんなことが、あるはずがないと俺は思っていた。
ありえないことはありえないのだと、何かで読んだことは記憶にあるし、誰もがそう思っていないわけじゃないことも知っている。
だけれど、この事実に関しては、素直に肯定できないものがあった。
「誰もが望んだから……世界が崩壊した」
オレの前に佇むそいつは、自らを異種王と名乗った。
人の形をとってはいるが、人でないものであり、それらを統べる存在であるという。
まさか着ぐるみじゃあるまいと、訝しげにしていると、疑問符を浮かべて俺を見た。
どうやらそのようでもなさそうだし、こんな機会は滅多にない。
でも、その事実が受け入れられないのだ。
「……人というのは、勝手なものだな」
異種王は車の屋根に軽くのぼり、そこに腰掛け、オレはタイヤを背にして地べたに座った。
「争いを望み、愛を求め、それでも尚欲望のままに生きる。我らはそんな人間を羨ましいとは思えない」
「そりゃ、だって、昔から、そういう風にしてきたからだ」
「昔から、か。なら、この世界に存在するための理由は何だ」
異種王の声のトーンに、高低差が生じるようになった。
きっと、憤慨しているのだろう。
「……大事なものが、あるからだろ。それをみんな、守りたいんだ」
そう思う。きっと、そうだと。
「気に食わないな」
その意見には賛成してもらえなかったようだ。
「そんなに理不尽な世界がほしかったのか、人間は。違うだろうに。争いのない、平和な世界を求めていたのだろうに」
「いや、そうなんだ、けど」
けど。オレには何も言えない。知っているからだ。
それがエゴだということを。
人間の生きるが故の、エゴだということを。
「人間が望んだから、世界が崩壊したのだと、言っただろう」
「それって、どういうことなんだ?」
「誰もが、一度はそう思ったからだ」
まるで、子供のつくったお話のような感覚。
「誰もが、って……」
「誰もが生きている間に、一度でも世界が崩壊すればいい、と」
異種王は息を荒げて言う。
「そのために、世界は崩壊を迎えたのだと我は教えられた」
そんなことが本当に。
何故だか、異種王の声が耳に残る。
キンキンとした金切り声のように聞こえている。
「人間よ、無いとは言わせぬぞ」
蛇に睨まれた蛙のように、オレは動けなくなった。
「……でも、それでも。オレたちは」
冷や汗なのか、脂汗なのかわからない液体に震えて、もうどうしようもなくなってしまう。
ただ、それを言うことが、オレにとっての。
「幸せに、なりたいから」
だから、何かを犠牲にして生きているのだと。
「……そうか。しかし、彼女もそう言ったんだったな」
彼女、とは一体。ふっと脳裏に浮かぶ、遼のこと。
「そうだ、遼は、どうすれば助かるんだよ」
思わず立ち上がり、異種王へと視線を向ける。
「助かる、だと?」
一瞬、異種王の目つきが鋭くなったように見えた。しかしそれも、一瞬であったのか、気のせいだったのか今となってはわからない。もう、最初に見たときの目になっていたからだ。
「助かるも何も、彼女は我らのために協力してもらったのだ」
誇りに思ってもらいたい、とは言わないが、すぐに帰そう、と異種王は言う。
何がなんだか、よくわからない。
「だから、それって、どういうことなんだよ!」
声を荒げて、オレは叫ぶ。
「……わからぬ奴だな。彼女は、我らの母となるべく試されているのだ」
その言葉にオレの思考は停止する。
どういうことだ、それ。
母となるべくだって?
奴らの母、って。
「我はもとよりこの世界、この国における最高樹齢の屋久杉より産まれし存在である」
両の手を掲げ、異種王は屋根の上に立つ。
「その母の肉体である、屋久杉が、土に還る時が近い。そのために、母の器に等しき存在を我は探していた」
まるでマンガや何かのような展開にオレは戸惑う。
「そのために、この街を利用した。見たであろう、樹木に絡まれた建造物や、自然のありし姿を」
あの、遼がいたマンションのことだろうか。
部屋の中は気味の悪い、うねる柱や、湿った空気の入り混じる場所であったこと。
「あの場所で、彼女を試していたのだが、君が連れて行ってしまった」
「連れていって、だって……?」
違う。
「あのまま、母の器に等しいかどうかを確認するまでは、おいておくつもりだったのだが」
何かが、違う。
「しかし、仕方がないな。君が次に何を言うかなんて、我にはどうとでもとれるような言葉である」
ふっと、異種王がその姿を消した。
「なっ……っ!?」
首に違和感を感じると同時に、身体が宙に浮かび上がる。
違和感というよりは、これは圧迫感だ。
誰かがオレの首を絞めている。どんどんと、その首に力が込められていく。
「本当に、彼女を必要としているのか、君は」
暗闇から、異種王がその姿を現した。
その自らの手で、オレの首は絞められて、持ち上げられている。
「くっ……!」
声が出ない。
息が、できない。
俺は、このままこいつに。
「それはちょっと、まずいよ」
どこからか聞こえてきた声に反応する間もなく、乾いた音が響く。
オレの首からは異種王の手は離れて、そのまま地面に落ちる。
かなりの身長差があったからか、地面から足先までの距離は結構あったはずだ。
しかし、それを柔らかい何かが受け止めてくれた。
「ゴホッゲホッ……つぅ……」
「あらあら、大胆な子ね」
女の声がして、手には柔らかな感触。
「無事かしら、藤宮君」
オレを抱えていたのは、ナイスバディのお姉さまだった。
柔らかいと思ったのは、オレの手がお姉さまの胸を掴んでいたからであった。
咄嗟に手を離し、言葉を探す。
けれど、うまく声が出せない。
「あらあら、顔が真っ赤よ?」
そんなことを言われても、今の状況がそれどころじゃないことは理解していた。
「かわいい子ねぇ」
咳き込んでいる間に、お姉さまはオレをぎゅうっと抱きしめる。
胸に顔が埋もれて、息ができない。
「また、貴様らか」
車の屋根の上にいた異種王が、こちらを見て言う。
「またとは何ですか、全く」
そう言ったのは、その体躯に似合わない大きさの拳銃を構えたスーツ姿の男。
「瀬尾君が怪我したのは君のせいなんだ。然るべき処罰を君に与えようと思ってだね」
「そうよー、あなたのおかげで仕事が増えちゃったんだからねー」
お姉さまがそう言うと、異種王は怪訝な声色で言う。
「怪我などさせた覚えはないのだが……」
スーツの男とお姉さまが顔を見合わせて、首を傾げる。
「……まあ、何にしても、そこの彼と、彼女を助けないわけにはいかないので」
スーツの男は拳銃をこちらに向かって投げる。
それをしっかりとお姉さまがキャッチして、オレはやっとお姉さまの腕の中から解放される。
「今日は逃がさないからね」
何だか、不穏な空気になりつつあるこの空の下。
オレは何もすることができずに、その光景をじっと見ていた。
そうして、夜は更けていった。



「ん……」
周りが明るい。
それに何だか寒い。
いつの間にか眠ってしまっていたようで、オレは目をこすりながら起き上がる。
目の前の光景に、絶句した。
昨日はそこは、平野だった。
その平野だった場所に、大きなクレーターがひとつあった。
誰の姿もない、まっさらなクレーターである。
スーツの男も、あのお姉さまも。
異種王さえも、見当たらない。
「……そうだ! 遼は!?」
まるで今まで忘れていたかのように思い出した。
眠っているはずの遼の名を叫びながら、車に乗り込む。
「遼!はる……」
そこに眠っていたのは、頬にうっすらと朱の指した少女。
寝息を立てて、眠っているようだ。
遼の額に手をあてて、体温を確認する。
人並みに、温かい。昨日の様子からは、打って変わったようである。
「……おい、遼、起きろよ」
軽く身体を揺さぶってやる。
少しして、小さな声をあげて彼女は目を開ける。
「んぅ……おはよ、けい」
起きた。まるで、何事もなかったかのように。
それを確認して、身体中のあちらこちらを触って確認する。
「ふぇ、ちょ、何するの、ねぇ……」
まだ半分寝ぼけている遼は、何も理解していない様子だ。
「……よかった、オレ、お前がいなきゃ、どうしようかって」
思わず声が漏れる。
「なに、どうしたの、けい……」
遼が言うのもかまわずに、抱きしめて言う。
「守れないって、思って、もう、駄目かもって」
遼は、何かに気づいたのか、何も言わずに抱きしめ返す。
「でも、よかった。もう、一人は嫌だから」
これからは、もっと。
「……馬鹿だね、けいは。私は君を、おいてったりしないよ?」
その言葉が嬉しくて。
でも、オレはそこから先は今は告げないでいようと思った。
しばらく、オレは遼の胸の中で、彼女が無事であったことに安堵した。

「ね、セリちゃんが見当たらないんだけど……」
「え? あ、そういやそうだな。どこ行ったんだあいつ」
二人で遅めの朝食をとりながら、セリがいないことに気づく。
二人でセリを探したけれど、どれだけ探しても見つけられることはなかった。
「どこ行っちゃったんだろ……」
はぁ、とため息をつく遼の肩を抱いて、オレは呟くように言う。
「あいつじゃなくたって、オレがいる、だろ」
ゆっくりと顔をこちらに向けて、遼はオレをじーっと見る。
「な、何だよ」
「……なーんでもないよ」
くすっと遼が笑って、オレの頬にキスをした。
そんなことは、初めてだったけれど。
この世界は、生きているのだと。
オレは理解した。
まだ、目的は終わっちゃいないから。
向かう方向は、決まっているから。



そうして、全ては進んでいく。







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