忍者ブログ

その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

それでも世界は生きているから 四塚と葵篇

それは俺を揺さぶり、記憶をまだらに溶かしていった。



聞きなれた声に耳を疑う。
「どうしたのですか? わからないわけじゃないでしょう」
兄妹の声が、抑揚のない状況で変化を遂げる。
それは聞いていて耳障りなもので、俺も葵も思わず耳をおさえることになった。
感覚は黒板を爪で引っ掻いたような音に近く、耳元でそれをやられているかのような錯覚に陥る。
「それにしても、何故こんなところにいるのですか、あなた方は」
それはまた、奇妙に音を変えていく。
聞き覚えのない声が耳をつんざく。
影もまた形を変えていく。
「憎いとは言わない、辛いとも言わない。でも駄目。あの娘なんかに、千字さんは渡さない」
高いトーンの女性の声に聞こえる音となり、それはハウリングを起こす。
意味のわからない言葉ともとれない音を発した後、それはある一定のトーンを得て、こちらに話しかけてきた。
「私を、助けに来てくれたのよね」
それがどれだけ重たい言葉だっただろうか。
葵には通じなくても、俺には通じた。
まるで呪詛のように、その言葉は俺を貫いた。
「ね、そうなんだよね」
その声は、誰であろう九支枝優子の声。
勉学を共にし、一時期は親密な関係でもあった彼女。
殺人鬼に殺されてしまった、彼女の声だった。
無論、姿形があるわけではない。
それは影だけなのだ。
理解しているはずなのに、理解できない。
それが何故そこで、俺の大事な友人たちを真似ているのか。
もう既に会うことのできない彼らの幻聴を聴かせてくれるのか。
「ねえ、四塚」
名を呼ばれ、それは近づいてくる。
「会いたかった、よ」
声はぐるぐると、殺人鬼と、九支枝と、見知らぬ女の声がぐちゃぐちゃに混ざり、俺の耳に届く。
その時ふっと、俺の背中を押す感触に気がついた。
一歩前に踏み出して振り返ると、頑なな面持ちの葵がいた。
何も言わず、真剣な眼差しで俺を見ているだけだ。
そうか、ああ。
葵が言わなくても、わかっていたのだ。
それを見いだせなくて留まろうとしていた俺がいけない。
踵を返して、影と対峙する。
「ねえ、そうなんでしょう?」
未だぐちゃぐちゃと音を変える声に、俺は言い返す。
「違う」
一呼吸置いて、俺は口を開く。
「お前たちは、もういないし、俺たちはお前たちに会いに来たわけじゃない」
影が言葉を発しなくなるまで、時間はかからなかった。
「世界が生きていることを確かめに来たんだ」






to be continue the next story →「それでも世界は生きているから 四塚と葵篇」






PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする

Copyright © その数秒を被写体に : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]

管理人限定

カレンダー

02 2025/03 04
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

フリーエリア

最新コメント

[11/11 りょ]
[11/20 Mes]
[11/16 りょ]
[10/14 朋加]
[09/29 朋加]

最新記事

(05/20)
(05/15)
(05/11)
RAY
(05/11)
(05/09)

最新トラックバック

プロフィール

HN:
ikki
性別:
非公開

バーコード

ブログ内検索

P R

カウンター

アクセス解析