あくる日、晴天の霹靂とは正にこのことを言うのだと四塚は思った。
朝食の用意をして、皆を起こそうとしていた時のことだった。
葵は寝起きが悪いので、一番最初に起こすことに決めてある。
その後で、イソロクさんを起こし、そして二人の少女たちを起こすことにしていた。
部屋のドアをノックして、声をかける。
「二人とも、そろそろ起きな」
返事がないことに異変を感じた四塚は、多少躊躇した後、ドアを開けた。
「まだ寝てるのか?」
しかし、そこには二人の姿はなかった。
布団は綺麗にたたまれていて、その上に一つの封筒が置かれていたのだ。
不思議に思い、その封筒の中を見る。
手紙が一枚入っている。
主に、斜め読みで済ませて、きっとまだ寝ぼけているだろう葵をきちんと起こしにいくことにした。
手紙の内容は、至極簡単なもので、食事の前にイソロクさんと葵に話をすることにした。
それは、とても急で、本当に一瞬で済むような内容のものだった。
「少し出かけてくるので、心配しないでください。って、どういうこと?」
葵がくしゃくしゃの髪の毛のまま、起きてきており、手紙を渡した時の台詞がそれだった。
「まあ、書いてあるとおりでしょ」
四塚はそう言うと、食事の用意を続けた。
「あのちっこいのが言っとったのは、このことだったのか」
イソロクさんが頷き、葵が秒の速さでそれに応じた。
「え、何か言ってたんですか、マリィちゃん」
葵からしてみれば、マリィもハイネも妹のようなものなのだろう。自然と呼び方にも、可愛らしさがこもる。
ただ、そういうことだけ、見ているわけにもいかないのだけれど。
「おお、下の列車は、一日中動いているのかと聞かれたんだ」
列車、か。
四塚には、二人がどこへ行ったのかがわかった。
「……それが、どうかしたんですか?」
葵にはわからないらしい。見かねる前に、四塚が言う。
「きっと、マリィのいた世界に行ったんだろう、ってことだよ」
葵は、ああ、そういうことかと頷いた。どうやら納得したらしい。
「まあ、他の世界とはかけ離れてはいるが、一日中列車が来るってのは間違いではないからな」
一時期でも経てば、戻ってくるだろう。
イソロクさんはそう言って、表を開けると言って部屋を出て行った。
四塚は食事をテーブルにならべて、椅子に座る。
「なんだかさみしいね」
葵が言う。別段気にしていなさそうな表情ではあるが、どこか悲しそうな雰囲気ではある。
「さ、早く食べて。冷めないうちにさ。で、髪も結ってあげるから」
葵は頷いて、四塚は自分の用意した食事に手をつける。
五人分用意したのになあと、少し悔しい思いをしながら。
これから、どうしようか。四塚は目の前にある地図を見て、思考をめぐらせた。
当初の予定では、今頃もっと遠いところにいるはずなのだ。
人を救おうとしていた、俺たちが今、一体何をしているのか。
こんなんじゃ、誰も救えない。
救えない?
いいや、自分が困っていないわけじゃない。それなのに人を救うとか、言っている場合じゃないというのに。
何がしたいのだろう。
闇雲に、ただひたすらに何かに立ち向かえる勇気があれば。
何も恐れることがなければ、俺は。
「難しい顔して、どうしたのよ」
背後からかけられた声に、ふっと惹かれる。
ああ、何だかこの感覚は久々な気がする。
「うん、なんでもない」
すぐ隣に葵がいるのを確認して、顔をあげる。
「どうしようかな、これからのこと、って、考えてた」
葵は俺の頭を抱えて抱きしめた。
「またそんなこと考えてたんだ」
胸があたる。
いや、苦しくないわけじゃないけど、おとなしくしていようと思わされる。
「君は、いつもそうだ。あたしには相談なしで何かをしようとするんだから」
その声に落ち着きを感じて、自分がどれだけ焦っていたのかを知る。
「たまには、あたしに相談してくれてもいいじゃない?」
一呼吸おいて、葵は言う。
「あたしを誰だと思っているの? あなたのお姉ちゃんなんだから」
それぐらいは、いいでしょう。
そう言って、頭を撫でられる。
おかしいな、何だか。
こみ上げてくる笑いをどう抑えるかが、今の課題だった。
少し、頭を冷やすことにした。
その後、葵と話し合って、やはり外に目を向けようってことになった。
イソロクさんは、寂しくなるなと笑いながら言った。でも、そんなのは表情には全くもって出さなかったのが印象的だった。
ハイネとマリィのことは、戻ってきたらあまり出歩かないようにと、頼んでおいた。
さて、じゃあ。
俺と葵の話は、もう少しだけ続くことになるだろう。
そうして。
まだ始まったばかりの世界は、その息吹を。
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