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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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それでも世界は生きているから 四塚と葵篇

いくつもの環が重なり、気がつけばそれは一つになって解けていった後だった。
俺の隣にいるのは葵だ。
その葵の隣にいるのは俺。
二人で一つの世界を共有していて、それが永遠に繰り返されるループする毎日。
終わりのない、メビウスの輪。
世界崩壊から、一週間。
今日の日付は、ハイネがいるはずの病院を後にして、次の行き先を決め兼ねていた十月八日。
一旦家に戻るべきかとも思ったが、どこかですれ違うのもいけないので、迂闊に動くことはできなかった。
そうは言っても既にすれ違いの後だ。
俺と葵は、まだ生きていることが不思議でならない。

「どうしようか」
眠たそうな葵を横目に、車を走らせる。
辛うじて障害物のなさそうな国道をひた走ること四時間。
流石に運転しっぱなしなのも疲れてきたところだった。
「そうだ、ね……」
あくびをしながら、ぼーっと窓の外を見ている葵。
俺と会話をする気があるのかないのか、何も言わずにいる。
「……とりあえず、こっち来ても、知り合いとかいないから、戻ろうか」
路肩に車を止めて、葵を見る。
返事がないと思ったら寝てやがるよこいつ。
葵がこうも、規定の睡眠時間以外で眠るのには理由がある。
葵は芸大に通う女子大生で、スランプの時や、彼女にとっての不安要素が多数存在する時ほど睡眠をとる。
その睡眠の果てに、答えを見つけ出す彼女の、ある種の解決方法が睡眠なのである。
がしかし、寝すぎだろうと俺は思う。
でも、とても邪魔はできない。
これも惚れた云々なのかと思うと、なんだか恥ずかしくなってきた。
答えを待つのも憚られるので、一度戻ることにしよう。
向かう先は、あの古本屋。
神崎たちと別れたところ。
あそこに行けば、何かがわかるんじゃないかと今ふと思った。
考えている余裕はない、だから先に行動を選ぶ。
こういう事態の時に限っては、そうでもないのだろうが。
もっと慎重にいけるような性格をしていたらなあ、と思いながら。

十月九日未明。
イソロクさんのいる古本屋に到着。
まさかこんな夜中にやっていないだろうと思ったので、車の中で寝ることにした。
流石に店の電気はついていないし、日付も変わったばかりだったのでそこはきちんとしないといけないと思って休むことにした。
「寝ちゃうの?」
俺の顔を覗きこむ葵。
「……や、だって、眠いし、流石に運転しっぱなしは疲れたよ」
なんだか構ってほしそうな目で見られている。
こういうのは早めに対処しないと、後が厄介だとわかってはいるのだが。
「つまらないわね……」
そのままいじけて、座席に戻る。
まあ、明日起きてから構ってやることにして。
俺は今は、身体の疲れを癒すために瞳を閉じた。

俺たちが家を出たのは、誰でもない誰かを救うため。
その予定だったのだが、これといって困っていそうな人は見当たらなかったのが答えだった。
きっと、みんながみんな困っているなんてことはない、若しくはもう既に助け合っているのだろうと思った次第だ。
しかし、こんなに早く足をこの地域で留めることになろうとは、誰が予想しただろうか。
まだ、自宅からそんなに離れていないようなところだし。
状況的に言えば、ドライブに行って帰って来た、みたいなそんな。
俺をゆっくりと睡魔が襲う。
意識が遠のいていくのを感じながら、流れに身を任せた。

朝。
流石に開いているだろうと思って店を訪ねた。
案の定イソロクさんはいた。
「おお、無事だったか君たち」
にこやかな笑顔がまぶしい。
「ええ、まあ」
「よかったな……姉さんの方は、なんだか眠たそうだな」
葵は俺の後ろで、俺によりかかっていた。
半分寝ているような感じで、どうも要領を得ない返事しかしない。
イソロクさんは、奥で寝かせてやろうと言って俺たちを案内してくれた。
案内された部屋に葵を寝かせて、俺は店に戻った。
「あの、イソロクさん」
古そうな装丁の本を閉じて、彼は顔をあげる。
「今この世界が、どうなっているかが気になるのだろう」
あれ、俺念かなにか送ったか、と思いながら頷く。
「そうだな、オルフェウスのことは知っているか」
「はい、巨大な隕石だとニュースで聞いたぐらい、ですが」
イソロクさんは頷き、後ろの本棚から一冊の本を抜き出してあるページを開いた。
「そう、これがオルフェウスだ」
その開いたページを見せてもらい、俺は息を飲む。
天体図の描かれた本だった。
その図の中に、銀河系の様々な星が描かれており、イソロクさんが示した場所にオルフェウスの名が書かれていた。
「これがついこの間この地球に墜落した隕石、オルフェウスだ」
その場所は、太陽と月の真ん中あたり。
「この本自体は相当昔のものなんだが、どうもこの本が存在した時代からオルフェウスは確認されていたようだ」
「え、それって、どれぐらい昔なんですか?」
咳払いをして、イソロクさんは声を整える。
「ざっと、百五十年ほど前かな」
えっ、という顔をしてしまった。
「元々、小さな星の屑だったんだ。それが今、百五十年という年月をかけていくつもの小さな屑星をその身に纏わせて、こうして堕ちてきたというわけだ」
何だ、この話はそんな話だったのかと俺の中の誰かが言った。
正直俺も吃驚だ。
「まあ、被害が少なくてよかったみたいだがな」
ガハハと彼は笑った。
「え、でも、そしたら地球の外に逃げた人たちはどうなって」
笑うのをやめてイソロクさんは苦虫を噛み潰したような表情になる。
「……彼らは、できもしていない火星の住居を目の前にして息絶えるだろう」
息絶える、ってことは、つまり。
「死ぬ、ってこと、ですか」
無機質な空間がそこに出来上がったかのように。
「ああ、そういうことになる」
イソロクさんは本を閉じて、天井を仰いだ。
「初めから、できるはずがなかったんだよ、地球外逃亡だなんてな」
背もたれのある椅子にもたれかかって、彼はタバコをとりだした。
「この星の、この地に生まれたからには、ここで死にたいと思うんだがな」
どうやら、世間のお偉方はそうでもなかったらしい。
「とんだ茶番だ。奴らは地球が無事かどうかもわからないところにいる。情報は手に入らないし、連絡が来ることもない」
口に咥えたタバコに火をつけて、一度ふかし煙を吐いた。
「やがて食料も尽きる。今火星につくってるってえ話の、居住施設なんざ、完成に何年かかることやらな。できねえことはねえだろうが、その前に燃料すらなくなる。仮に間に合ったとしても、欠陥でもありゃ一瞬でお陀仏だよ」
煙が充満して、少し煙たい。
俺は、それを聞いているだけしかしなかった。

その後、葵が起きてきたので他の世界のことも少しだけ聞いてみた。
神崎たちは無事に次の世界に着いたらしいし、地下のホームは比較的安全らしい。
だが、このような状況で、こちらに来るような輩は滅多にいないという話だった。
俺と葵は、しばらくここに泊まっていくことにした。
何も決まらないまま移動するよりは、そのほうがいいだろうとイソロクさんは言ってくれた。
幸い、本がこれだけあれば葵も俺も退屈はしないだろうし、ひょっとしたら彼女のスランプもどうにかなるんじゃないかと思った。
でも、安心して過ごすことなんて、できっこないんだということに俺たちは気づく。
翌日、十月十日。
天気は相変わらずよかった。
葵は今日はずっと起きていた。
この調子なら、きっとまた何かをつくれるのではと俺は期待していた。
しかし、ある出来事がこのゆるい時間を崩したのだ。

それは、出会える場所で出会うことのできなかった少女。

水嶋ハイネとの、奇妙な再会から始まった。







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