ガタン ゴトン。
列車が音を立てて走る。
界を渡るために、未だ見果てぬ線路を往く。
窓の外は、暗い空を映し出すだけだ。
一人で列車に乗るのは初めてだった。景色でも見ていれば飽きないだろうと踏んだが、30分で飽きたあたり僕は飽き性なんじゃないかと思う。
しかし、思っていたよりも時間がかかりすぎている。あの時、アヤカシが教えてくれた通りに列車に乗っていたのはよかったのだ。
思いがけないトラブルに巻き込まれた。
そのトラブルのおかげで、今のこの列車も、先程発車したばかりだ。早く、早くハイネに会いに行かなければならないのに。
そのトラブルって言うのが、これまた奇妙なものだった。僕のいる世界に幽霊鷺と言う鳥の一種がいる。幽霊鷺は、その名の通り幽霊のような出で立ちで、実体をを持たない神秘的な存在であり、ある地域では神として祭られているらしい。
その幽霊鷺は群れをなして飛ぶ。その群れをこの列車が轢いたらしい。
普段は幽霊鷺たちが避けてくれるらしいのだが、それによって一時停車を余儀なくされた。そのままでは先に行くのが困難となり、急遽別の列車が手配された。
今乗っている列車がその列車である。
あまり焦るのもいけないということらしい。僕はおとなしくしていようと決めて、ハイネのことを考えていた。
「こちら、よろしいですか」
一人の女性が、車両を跨いでやってきて言った。
見渡してみたが、ほかにもいくつか席はあいている。
断るのも失礼かと思い、僕は頷いた。
「ええ、どうぞ」
女性は軽く会釈をして、持っていた重そうな荷物を棚の上におしやった。
そして席に座って、窓の外を見つめた。
綺麗な人だ。
大人の女性って感じがする、落ち着いた雰囲気の人だ。
髪は綺麗な金色で、内側に巻かれている。
どこか、人とは違うような感じがする。
僕も窓の向こう側を見ることにした。
あとどれくらいの時間がかかるのだろう。
一刻も早く、ハイネのもとに行きたいのに。
「どこか、ご旅行ですか」
女性が僕に声をかけた。
「あ、いや、旅行って言うか、その」
まさか聞かれるとは思ってはいなかったので、答えに困った。
「私はね、家族のところへ帰るところなのよ」
その瞳は、窓の外を見つめたままだ。
「でも変なの。どこの駅で降りればいいのか、わからなくなってしまったの」
女性の瞳を覗き込む。
その言葉を発した今、その瞳に光は失われていたように見えた。
しかしそれもつかの間、すぐに女性は口を開く。
「ごめんなさいね、変なこと言っちゃって」
くすりとした表情で、女性は僕を見る。
「あなたも、帰るところなの?」
その視線は、どこか冷たいものがあったように感じた。
「はい。好きな人の、ところへ」
言ってから気づく。
なんだか恥ずかしいことに。
「それは、いいことね」
女性はそれから、ずっとニコニコしていた。
少し君が悪いと思ったのは内緒にしておいて。
それから三時間後、僕はやっと目的の駅に着いた。
女性に、ここで降りると挨拶をすると、気をつけてと言われた。
何に気をつければいいのか、よくわからなかったけれど。
古びたホームに、列車は止まった。
誰よりも早く、この列車から降りたい。
そして、ハイネを探しに行かないといけない。
それだけが今の目的。
僕を見送ってくれた、エンリッヒとルナリアのためにも。
二人に、会わせたいから。
長い長い階段を上っていく。
ひたすら上っていく。
ところどころの灯りが、消えていたりして少しだけ怖かった。
どうしてこんな地下に、列車のホームをつくったのかが気になる。
きっと、普通の人には知られてはまずい何かがあるのじゃないかと思って、考えるのをやめた。
ただ、あまり運動しない僕にとってのこの階段は、地味に辛いものがある。
そして、やっとのことで上りきった先。
ドアを開いて、その向こう側へと足を踏み出した。
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