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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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それでも世界は生きているから それぞれの道1

「まあそうだよね、浸水しててこっから先は行けないよね」
ぼそっと呟くようにして、目の前の光景に立ちすくんだ。
本州とこちらを結ぶトンネルが、先のオルフェウスのせいで沈んでいるだなんて思ってもみなかったのだから。
はあとため息をついて、ソファで眠ったままの遼をバックミラー越しに見る。
顔は見えないが、何も言わないってことは眠っているのだろう。
安心して、今一度正面の光景を目に焼き付けた。
瀬尾からこの車を受け取って、二日が過ぎた。
それからは誰にも会っていないし、二人だけで過ごすことになっていた。
今、これからをどうすべきかが問題なのはわかっている。
陸路が駄目なら、空路、いや海路か。
とは言うものの、港なんかまともに動きそうな船なんかないだろうし、仮に動けたとしてもこのご時世だ、何が起きるかわからないものだ。
待てよ、そういえば引き潮で海水が引いていくんじゃないか?とも考えたが、結局はそれも当てになりそうになかった。
当分、ここで立ち往生か。
遼が退屈さえしなければ、それもいいだろうとは思う。
でも、四塚さんに会いに行くって決めたからには、行かないといけない。
まずは、他の道でも探すことにしよう。
それに、先にラジオを流してるやつのところに行かなきゃ。
車をUターンさせて元来た道を戻る。
天気は上々、晴れのち晴れ。
快晴である。
当分、雨は降らなさそうだ。
今日は、十月九日。
世界崩壊から、五日目。
僕と遼はまだ、生きています。


※   ※   ※   ※   ※


「葵さん、その荷物はなんでしょうか」
少し目を離しているうちに大きな荷物が手荷物に増えていた。
「え、これは、そのね、うん」
何だかあたふたしそうな雰囲気の葵を見て、俺はいい予感もいやな予感も同時に遠のいていったことに気づく。
「見せなさい」
無表情で葵に詰め寄り、それを奪う。
「あ、ちょっとー……」
中を開けると、もりもりっとぬいぐるみが詰められていた。
「……」
唖然とする余裕もなく、肩を落とす。
「戻してきなさい」
「いや」
即答されても困るんだけど、実際。
とは思ったものの、言うのすら憚られるような状況で。
まだ家を出て、数百メートルと離れていないのにこんな調子だった。
家を出てすぐに葵が忘れ物をしたと言い出したので戻って取りに行かせたのがこれ。
何ともまあ、この姉はとも思うが、これだけならまだいい。
この荷物以外にも、がんっと荷物が増えている。
勘弁してほしいよ、全く。
一旦家に戻り、その荷物を全て置いてくることにした。
あーあー。
こんな調子で、誰かを助けることができるのかな。
不安になってきた。
とりあえず、当てもなく彷徨うのはまずいので、まずはハイネを訪ねていくことにした。
きっと無事だとは思うけれど、まず葵を安心させておかないとまずい気がする。
でも、旅は道連れ世は情け、にはならないように気をつけようと思う。

よくよく考えると、彼女の入院している病院は遠い。
海沿いの、あの街に行くのに、電車で一時間ちょっとかかるんだよ。
それを、ほとんど徒歩で行こうなんて思っては居ないけれど。
両親の車を借りてきて正解だったと今心から思う。
しかし、本当に誰の姿も見えない。
オルフェウスの影響で死んでしまったのだろうか。
いや、それはないはずだ。
誰も、家から出ようとしないだけだろう。
その気持ちは、俺も葵もわからないでもないんだ。
でも、ただ家に閉じこもっているよりも。
誰かの役に立ちたいと俺は思ったから、家を出たんだ。
そう、誰でもよかった。
人助けになるなら、何だってするつもりでいたんだ。

「え…いない、んですか?」
葵のがっかりした顔を見て、久々に見たなこんな顔とか思ってしまった。
病院についたのが、既に夕方を過ぎたころだった。
家を出たのは、朝だったんだけれども。
それでも、少しずつ、人の姿を診ることができた。
所々の道が、崩れて通れなかったりしたので迂回ばかりしてやっとたどり着いた。
その結果がこれ。
どうやら、世界崩壊の日の朝、病室から忽然と姿を消していたという。
仲のよかった子もいないので、一緒に出て行ったのではないかと言われてしまった。
がっかりする葵を宥めながら車に戻る。
「……どこ、行っちゃったんだろう」
寂しそうな葵を抱き寄せて、頭を撫でてやる。
「何か、あったのかなぁ……」
俺はそれをただ、聞くだけに留めて。
車を走らせた。
十月七日のことだった。

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