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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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それでも世界は生きているから マリィ篇2

僕はそれでも彼女と添い遂げるために。
崩壊した世界を見届けるために。
交わした約束を守るために。



外では祭が行われている、天気のいい日々が続いた。
図書館の本は片っ端から読んだ。関係のありそうな本も、なさそうな本も全て読んだ。本屋だって覗いたし、占い師のとこにも行った。街中をくまなく探したけれど。
手がかりになりそうなものは一つもなかった。やはり、この世界には何もないのだろうか。
記憶を取り戻してから、三日が過ぎていた。

「お嬢様、少し休んではいかがですか」
部屋で本の山に埋もれている僕を見て、ルナリアが声をかけてくれた。
「うん、でも、もう少しだから」
言いながら、今読んでいる本を読み進める。机にカップが置かれて、お茶を注ぐ音が耳についた。
「何か……手がかりはありましたか?」
紅茶の香りと共に、ルナリアの言葉がかけられる。
ついでに言えば、読んでいた本をルナリアにとられたぐらい。
ルナリアは、何かをしながらの他ごとが嫌いだ。何度か注意を受けたが、気に留めることはなかった。
「あ……」
多分怒っている。顔には出ていないが、きっとそうだ。僕からとりあげた本を難しい顔をして見ている。
おとなしく休憩させてもらおう。
「少しぐらい、休まないとダメですよ」
ルナリアが本を閉じて、テーブルの上に置いた。
「うん、ごめんねルナリア」
返事と謝罪を絡ませて、カップをとる。
「……早く、見つかるといいですね」
少し悲しそうに彼女は言う。
視線は窓の外、遥か遠いどこかを見ているようだった。
あの後僕は、二人に全てを話した。
包み隠さず正直に全部。
ハイネのことは勿論、僕の身分のことも、カムパネルラのことも。
最初はまるで信じられないといった様子だったが、二人は信じてくれた。そして僕が向こうに戻る方法を探すのを手伝ってくれるとまで言ってくれた。
意外だった。
誰も信じてくれそうにない、そんな夢物語のような話を二人は信じてくれたのだ。
エンリッヒは仕事柄、たくさんの人と関わるらしいので、そちらをあたってくれているらしい。ルナリアは、知る限りの範囲でのメイド仲間に聞いてくれているとか。どちらにも感謝こそすれど、答えは一向に見つからなかった。
いつの間にか用意されていたスコーンに手をつける。多分、おいしいはずだ。
昼下がりは、優雅とは言えないが過ぎていく。終わらない時間みたいで、僕は期待をしてしまう。そんな時間なんか存在しないってのに。
向こうの世界では雨に降られてばかりで、まともな天気に遭遇できたことが少なかった。こちらの世界の今の時期は、ほとんど雨の降らない時期である。それ故に鳥がよく飛び、草木が茂り、花は色鮮やかな花弁を乱れさせる。
そんな気候のこの世界で。
どれだけ、ハイネと一緒だったらいいことか。
ハイネと一緒に、あちこちに行きたい。こっちの世界の海は、どこに行っても綺麗だと教えてやりたい。
ハイネが望むことなら、全て叶えてやりたい。
ハイネとずっと笑いあっていたい。
ハイネとなら、永遠だって。
病気なんか何とでもなる。
どんな目にあっても怖くない。
死ぬことすら、受け入れてみせるのに。

「お嬢様、今日はお祭りの一番盛り上がる日ですよ。よかったら行ってはいかがですか?」
優しく微笑むルナリアが、僕を見て言った。
確かに天気はいいし、少しぐらいの休息はほしいかもしれない。いや、でも、帰る方法を早く見つけないと。きっと今頃泣いている――。そう考えると、いたたまれない気持ちになる。
「うん、そうだね、そうさせてもらうよ」
寂しがってるだろうなんて考えたりして。
自分の気持ちを棚にあげて。

ざわざわとした広場から続く道。道の端には出店が並び、人が多くたむろしている。
清清しいこの天気で、僕は一人気を安らげるために歩く。
ルナリアは仕事がまだあるからと言って屋敷に残っている。
仕事が終わり次第、エンリッヒと共に来るのだろうと勝手に思っていることにした。
ルナリアからお小遣いという名目でお金を少しもらった。
どうも、エンリッヒが用意してくれていたらしい。
遠慮はしたのだけれど、ルナリアに逆らうのは今の状況ではあまりよろしくないことなのでやめておくことしにた。
あてどもなくふらふらと歩く。
どこを見てもにぎやかだ。
まるで、この世界には何も問題のないかのようなそんな雰囲気さえ醸し出されている。
カムパネルラや家族と、ここに旅行に来たときのことは覚えている。
あの時も、こんな天気だった。
丁度、今みたいに街の真ん中の広場で、曲芸士達が芸を披露していた。
それをカムパネルラと二人で見ていたんだ。
「……うん、これはまずい」
眼前の光景に目を見張り、後ずさる。
どう見たってあの後ろ姿は僕とカムパネルラだ。
多分、家族はまだ宿にいるころだろう。
二人はこの曲芸士たちの芸を途中まで見て、その後近くの出店を見てまわるんだ。
ああ、覚えているさ。
好きな子と何をしたかなんて、一つ一つ覚えているさ。
鉢合わせしないように、店と店の間を縫うように一本裏の道へと入る。
やり過ごすのは容易だった。それはたいした問題ではないのだ。
二人が通り過ぎたのを確認してから、大通りに戻った。
道を行く二人の背を見送り、僕はその逆を歩いていく。
この後は大丈夫、問題なんかないはずだ。
二人で祭りの様子を見て、後は宿に帰るだけ。
そうして、互いの気持ちを知り合うだけなんだから。
しかし、僕は何故こんなにも晴れた気持ちでいることができるのだろうか。
カムパネルラのことで、未練がないと言えば嘘になるけれど。

わからない。



そうしているうちに、陽は傾いていった。
お祭り騒ぎも、今夜を境にその勢いを更に増していくことだろう。
そうしていくうちに、僕はこの世界の流れに身を任せたい衝動に駆られた。
絶対的な答えを持っているのに、それに追従しないというのはなんということか。
……深く考えるのはやめておくことにした。
結局、どこにいたって考えてしまうことは同じなのだ。
気晴らしという名の、考え事か。
それもいいかなと思える自分が、やけに珍しく感じる。
何かが変わったってことなのか。
ルナリアもエンリッヒも、まだこちらには来てないようだ。
一度屋敷に戻って、また一緒に出向いてこよう。
そう思って帰路につこうとした時だった。
「ちょっと、あなた」
呼びかけられて、立ち止まる。
辺りを見回すが、誰もいない。
「こっちよ、こっち」
声は上から聞こえてきた。
「そう、こっちよ」
声のしたほうへと顔をあげる。
建物の二階の窓から、上半身を乗り出した女性がこちらを見下ろしていた。
「え、何、ですか」
とても高い声で、僕を呼んだ。
「ちょーっといいお話があるんだけど、聞いていかない?」
不敵に笑う彼女に、僕は。
何もかもを任せることになるだなんて。
この時はまだ思ってもみなかった。
でも、それでも。
僕は可能性に縋るしかなかったんだ。



僕はあてがわれた部屋で、ずっと外を見ていた。

まだ外は明るい。
祭りは終わらない。
何かが変わろうとしている。
僕が?
いや、きっとこの世界がなんだろう。
駄目だ。
混乱して何も考えられない。
ああ、もうどうすればいいのだろう。

あったことだけを思い出すと、そうだ。
あの女性、アヤカシと名乗ったんだけれど。
アヤカシの部屋で、話を聞くことになった。
そのまま帰るつもりだったのに、時間はとらせないからって言われた。
見知らぬ相手の家にほいほいっと上がりこんでしまうあたり、警戒心がないのもどうかと思う。
でも、何かを感じたから僕はそれに応じたんだ。
彼女が言うには、僕のことを知っているってことらしい。
僕が向こうの世界に行ったことも、元々こちらの世界の住人だということも。
そして、今、向こうに戻る手段を探しているということも知っていた。
一体何者なんだという質問には答えてくれなかったけれど。
でも、重要なことを教えてくれると言った。
僕はそれを聞き逃さないよう、姿勢を正した。
ずっと、クスクスと笑っている彼女の容姿は、どこか妖艶なものがあった。
上からこう、胸元を強調して、くびれはそれこそ整っていて、足元には太ももの見える大胆なスリットが入った民族衣装に身を包み、彼女は足を組み椅子に鎮座していた。
「三日後の夜、街の外れの廃墟においでなさい。向こうに戻る手段を教えてあげる」
見た感じはこの地域の人間ではないようだが、そんなことをすらすらと喋る。
僕はそれを、なんと答えたのか覚えていない。
「それまでに、お別れを済ませてきなさい」
お別れ。
「え、じゃ、じゃあ、もうこっちには戻って来れないって、こと……?」
僕はそれが不安で、聞き返す。
「んー、ま、あなたには向こうでやってもらいたいことがあるのよ」
アヤカシは椅子から立ちあがり、ベッドに腰掛ける僕の頬を撫でる。
顔が近い。とてつもなく近い。
僕の瞳を覗き込むようにして、アヤカシは僕の髪を撫でた。
「大丈夫よ、とって食ったりはしないから」
そう言ったにも関わらず、アヤカシは僕の頬をその長い舌で舐めまわした。
「…・・・ひっ!?」
いきなりの行為に、身を強張らせて、アヤカシから離れる。
「あら、別に食べたりしないって今言ったじゃない」
カカカと笑いそうな顔でアヤカシは言う。
僕は舐められた頬に手をあてて、何も言えずに黙り込んだ。
「そんなに警戒する必要はないわよ。ほら、今日はもう戻りなさい」
そう促されて、部屋のドアを開けられた。
僕は何も言えずに、部屋から出た。
「あ、そうそう」
背後で声がする。
そっと振り向くと、彼女がにっこりと笑っていた。
「信じるも信じないも、あなたの勝手。ただ、私はね」
その言葉を、僕が信じるかどうかで。
「あなたにしかできないことを、してもらいたいの」
世界が一変するというのなら。
「誰でもない、あの子のこと」
僕は。
「水嶋ハイネの命を、救ってほしいの」
後悔しない世界を、望むんだ。






マリィ篇3へ続く。

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