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その数秒を被写体に

日常を主に綴っていく日記。バイクと釣りと、後趣味の雑文なんかが混ざる。

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それでも世界は生きているから ハイネ篇3

眩しい光の中、衝撃を感じて瞳を閉じる。
それを見続けるなんてできなくて、私は逃避の方法を選んだ。寧ろ本能から来る自己防衛の一種なのかもしれないと思った。
そんな冷静さを忘れられなくて、残念だった。身体が熱い。いっそのことこのまま灰になれればいいと私は思ってしまった。おかしな話だ。身体が燃えているわけではないのに、熱いだなんて。
私の身体は宙に浮いて、弧を描いた。地面に落ちるまでの間は、とても長く感じられた。
光はどこかへと消えていった。
衝撃は、私の身体のいたるところを痛めつけた。何故か身体が重たく感じてしまう。
身体が動かない。
いや、動かせないと言うべきだろう。
うつ伏せに道に転がる私は、何か堅いものに頭を強く打ちつけたようだ。
痛みは感じないけれど、生暖かいものが流れていくのがわかる。
生臭い、きっと血なんだ。
鼻をつく血液のにおいが、私の意識を朦朧とさせていく。
ああ、もうダメなのかしら。
ここで終わりなのかな、私。
向こうへ行けたなら、リリに謝らなくちゃいけない。
許してはくれないだろうな。
そう考えながら、私の視界は奇妙なものを捉えた。
人影。
月明かりを背に立つ人影だった。
声すら出ない。
私はその人影を見上げていた。
顔は影になっていてわからない。
それは私の傍にしゃがみこんだ。
大丈夫ですかと声がかかることもなく、その双眸は私をじっと見つめている。
うっすらとしていく意識の中、それが私に触れて――。



深い意識の底に沈む、一種の幻想。
それは古き良き思い出の延長線上にある理想の形。
私とリリと兄様の三人が、仲むつまじく寄り合って続く、理想や夢でしか実現し得ない形。
私は、そこに笑う私を見ていた。
隣に並んだリリと兄様も、一様に笑っている。
きっと、リリと兄様が望んでいた世界。
私が崩壊させた、最初の世界だ。
その後ろにもう一人いる。
輪郭がぼやけてよく見えない。
笑っている私たちを見て、ただそこに佇むばかり。
誰なのだろう。わからない。
思考を逡巡させても、答えという形がとれない。
しかし私は尚も思考を巡らせる。
段々と形は表されていき、それが一人の少女だということが見てとれた。
一瞬だけ、悲しそうな顔をしているように見えた。
すぐに辺りは闇に包まれて、私の視界はただ残された私と、後ろにいる少女だけになる。
落ち着きをなくした私は狼狽えることもなく、振り向いて少女を見た。
少女は私を認識して、表情を変える。
安らかな笑顔。
安心しきったその顔から零れそうな笑みが、私の思考を止めさせる。
私と少女は互いに歩みより、寄り添うように肩を並べる。
闇の中、二人しかいないことが恐ろしくない、互いさえ居れば問題ないと、今にも言わんとしていた。
少女は私を呼んだ。
聞いたことのある声。
私が知らない声ではなく、少女の声は私を安堵させる。
記憶の中で何かがひっかかる。
胸のうちに生まれる、もやもやとした感情。
私の口も、少女の名を呼ぶ。
が、肝心の名前の部分だけノイズがかかったように聞こえない。
どうしたことだろう。それが何故かとても悲しい。何か大事なことなのだろう。それが思いだせないだなんて。
悲しいと感じた瞬間に、世界は転じた。
闇は一瞬にして光となり、私の目は眩む。すべてが光になる瞬間、少女は私を見て手を差し伸べていた。
次に目を開けた時には、私は知らない部屋で目覚めた。

見たこともない天井、見たこともない部屋。
「……あ、れ……?」
伸ばした手は、光の中で消えた少女に向けられていたはずなのに。
掴んだのは虚空。
「生き、てる……」
夢だったのだ。今までのことは夢だったのだ。
流れる涙が頬を伝い、やりきれない思いが交錯する。
身体を起こして、衣服の乱れを直す。どこかでかいだにおいのする衣服だった。
汗で身体中がベタベタになり、気分が悪い。
それよりも今は、自分でも何が悲しいのかわからないし、何故涙が流れていくのかもわからない。
この胸のうちの感情を、露わにすることすら叶わない。
涙が枯れるまで、私は声も出さずに泣いた。
しばしの後、小さな物音がした。
ドアが開く音だろうか。
それに続く足音。
私は耳をすませ、音を拾う。
そんなに広い場所ではないような感覚で、籠もる音が妙に心地よい。
誰かが助けてくれたのだろうから、私はここにいる。
ゆっくりと立ち上がり、壁伝いに歩く。
襖を開いて、音のする方へと足を向けた。
薄暗い廊下を進んで、身体の確認をする。
痛みはないが、気分は悪い。
少しふらっとするぐらいなら平気だと自分の身体に言い聞かせた。
そして、音がする方の最後の扉を私は開けた。
「っ……」
ドアの隙間から漏れた光が、夢の最後の瞬間をフラッシュバックさせる。
それでも尚、私は立ち続けた。
「……本、棚」
見渡す限り本棚と、それに入りきらない本の山が広がっていた。
すごい。
こんな量の本は初めて見た。
一体どれぐらいあるのだろうか。
バサっと音がしたので、そちらに目をやる。人が作業をしているのが見えた。
きっと私を助けてくれた人だろうと踏んで、声をかけた。
「あ、の……」
しゃがみこんでいたその人は、私に気づくとゆっくりと立ち上がり振り向いた。
「…………あ……」
血の気が引いていくのがわかる。
その人の身体の大きさ、身長の高さから私は理解した。
「お、気がついたかい嬢ちゃん」
この人は、私に声をかけた、あの。
「い、いやああああぁぁぁぁ!!!」
断末魔の叫びをあげて、私は腰を抜かしてしまった。
その男性はきょとんとした顔で私を見下ろしている。
そこから動くことができずにいる私を、助けてくれた人がいた。
「今の叫びは何ですか!?」
一組の男女がどこからともなく駆けつけた。
私は二人と目が合い、そして気づく。
「あ……」
葵さんと、四塚さん……?
「ハイネちゃん!よかった、目覚めたのね!」
葵さんが私を抱き起こして、そのまま抱きしめてくれた。
「え、あ……、えっ、と……」
男性が怖いのも忘れて、私は葵さんを抱きかえした。
そうだ、このにおいだ。この服は葵さんのだとそこで気づいた。
ふと、四塚さんと目が合う。それに気づいたた四塚さんが、喋りだした。
「よかった、本当よかった」
嬉しそうな四塚さんと、いつの間にか耳元で嗚咽をあげている葵さん。
二人に会えたことが、今の私にはひどく嬉しいことであった。

「その……ごめ、んなさ、い……」
私は男性に謝っていた。
「まあ気にするない。ほれ、食え。大したもんじゃないがな」
男性はガハハと笑って、私に料理を勧めてくれた。
この人はイソロクさんと言うらしい。
私に声をかけてきたのは覚えている。しかしその後のことはどうにもうろ覚えだ。
「ハイネちゃん、身体痛いところない?」
葵さんはずっと私から離れないで、色々と心配してくれる。
四塚さんはその隣で合いの手を入れるかのように、葵さんを落ち着かせようとしている。
「葵、あんまりハイネに構っても、困るだけだろ」
何だか、四塚さんが葵さんの保護者みたいだ。
私は、イソロクさんのつくってくれたお粥を少しずつ食べながら事情を説明した。
「……つまり、よくわからないってことでいいのか?」
話した後、四塚さんがそう言った。
私は頷く。
「は、い。彼女の名、前すら、思い出せな、くて……」
私は俯いて言う。
「で、も、会い、たくて……」
辛い。けれど、これは私のためでもある。
「どうす、ればい、いの、かな……」
私の言葉で、皆黙りこんでしまった。
沈黙。
どこからか聞こえてくる、列車の音が耳についた。
「……線路、か何か、ある、のでしょうか」
私が声をあげ、イソロクさんがハッと気づいたような顔をする。
「ん、ああ、もうそんな時間か」
壁にかけられた時計は、六の数字を指していた。
この数字で見る限り、六時だというのはわかる。
しかし、朝なのか夜なのかは私にはわからない。
きっと、皆の様子からして夕方なのだろう。
「まあ、こんな時にこっちの世界に来るなんて輩はいないだろうが」
そう言って、イソロクさんは表に出て行った。
こっちの、世界?
私のわからない話が、どこかで始まっている?
疑問符を浮かべていると、葵さんが私の頬をつついた。
「ご飯、食べないの?」
不安そうな顔をしているのがわかる。
私は少し戸惑って、ふるふると首を横に振った。
「葵、そんなんじゃ、ハイネも落ち着いて食べれないよ」
フォローするかのように、四塚さんは、私から葵さんを引き剥がした。
「ちょっと、何するのよ」
じたばたする葵さんが、可愛らしく見える。
お姉さんっていう、イメェジしかないのだけれど。
私は、それが微笑ましくて。
そのまま四塚さんは葵さんを連れて表に出て行った。
部屋には私一人になった。
目の前に用意されている、食事を口に運ぶ。
「おい、しい……」
少しずつ、だけれど。
私は、味わって食事をした。
食べ終わって、私は息をつく。
とは言うものの、半分以上残してしまった。
あとで謝っておこうと思い、表の様子が気になった。
ふと、聞きなれた声が響いていることに気づいた。
誰、だろう。
記憶の中に、その声が残っている。
頭痛がしはじめた。
うまく、息ができない。
壁にもたれかかり、そのまま立ち上がる。
何かが私を呼ぶ。
何かが。

ドアを開ける。
吐き気を感じて、膝を落とした。
誰かが、すぐそこで叫んでいる。
よく覚えている。
核心は、私を呼び起こすことがないけれど。
そうだ。
私は知っている。
声の主を知っているのだ。
視界がふらふらとするのを堪えて、声のする方へと、足を運ぶ。
「だから!病院だよ!海の見える、あの病院!」
がなるように叫んでいる。
「いや、それだけじゃわからんだろうって言ってるだろ、さっきから」
少し落ち着きたまえと、イソロクさんが言っているのが聞こえた。
「ああもう、じれったい……」
なんだか、焦っているような声だ。
私は、その、声を。
ズキンと、一度、激しく頭が痛んだ。
「あ……」
気がついてしまった。
渦巻いていたのは、自責の念と、罪悪感。
私をここまで思い立たせたのは、彼女だけなのだ。
そう、なのだ。
形が崩されたかのように、私の中で全てが纏まりだした。
急激に鮮明になる記憶。
私の中の記憶が。
よろよろとした足取りで、進もうとした時だった。
詰まれていた本に躓き、声をあげる間も無く私は倒れる。
ばさばさと大きな音を立てて、本と一緒に崩れてしまう。
「どうしたんだ、大丈夫か嬢ちゃん」
イソロクさんが、私に気づいてくれて、こちらに視線を向けてくれた。
「は、い……」
身体を起こされ、私は顔をあげた。
ふと、目の前に立ち尽くすその人物の存在に気づく。
顔をあげると、そこには夢の中にいた、あの少女が――
「やっと、会えた……」
膝をついて、少女は私と同じ目線で話をしてくれる。
記憶にある中の、とても大事な存在。
夢の中でも、そして、この世界でも。
もう会うことは、できないと、心のどこかで思っていたのに。
涙が流れるのも厭わずに、彼女も私も、そこにいた。
抱きしめられて、抱き返して。
ただただ、夢の続きでもないことを、私は祈って。
全てがなくなったとしても、もう二度と離れないようにと。
私は今、ここで全てを思い出した。









「マリ、ィ……?」






胸に刻んだ。
マリィという存在と、その愛の形を。

何故かひどく、懐かしい感じがした。
彼女の温もりが、優しさが。



私には、それがとても暖かくて。



そうして、私は決意した。

水嶋ハイネとしての世界を崩壊させて、新たにハイネとしての世界を創りだすことを。
















to be continue the next story →「それでも世界は生きているから ハイネとマリィ篇」









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